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花束を持って、君と  作者: 雲雀ヶ丘高校文芸部
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6話-8

 そもそもの発端はあの時タクマに云われた一言だった。



 ──音楽でもやればクラスメイトにモテるかもな。



 その言葉を鵜呑みにして克馬は音楽を始めた。ギターの練習から打ち込みまで、得手不得手関わらず今まで機械と向き合っていたのと同じ様に真面目に学んだ。

 習得していく過程で、克馬は自分の好きな音楽も分かってきた。それまで聴いていた流行の音楽は、洗練された現代の技術を生かした時代に合った音づくりがされており、多様性と複雑さが増すその中でも大衆の支持が得られるという素晴らしい音楽の数々であったし、実際に克馬のプレイリストも常に同じ顔ぶれだった。

 だが克馬が学んでいく内にそれらの曲はプレイリストから徐々に削られていき、代わりに投入されたのが、意外にもシティポップだった。

 海外の音楽に憧憬し作られた曲の数々は、まず土台となる演奏が、それだけで聴くに耐えられる物だった。カァンと響くスネア。シンセや打ち込みの音をクリアに鳴らし、ギターの多重録音で音に深みを出す。コーラスワークと、決して妥協しない音へのこだわり。

 そして少しエコーを効かせた、空を飛んでいる様な声。セクシーな低音とどこまでも伸びていく高音が、バックで流れる音楽と混ざり合って浮遊感を生み出す。

 そのシティポップに出会えたのは母親のお陰だった。結婚を機に実家からコンポと大量のカセットとCDをもってきたは良いものの、父親と過ごす時間に流すタイミングが分からず、押し入れにしまったままであった。

 時折一つ取り出しては、大事そうにプレーヤーに入れてイヤホンで聴いていた母親だったが、克馬がギターを始めたいと両親に報告すると、自分のコレクションを全て克馬の部屋の棚に収納して、水を得た魚の様に熱心に克馬に語って聞かせた。やれお父さんは音楽を分かってないだの、やれ自分はこれまで同士がいなくて一人で寂しい思いをしていただのと克馬に訴える母親を見て、父親も車で出かける際にラジオをやめてCDで曲を流す様になった。

 やるならギターだけでなく、幅広くやった方が良いと勧める母親の助言に従って、克馬は浴びる様に音楽を吸収していった。ピアノは母親から、ギターは同級生から、打ち込みは──父親の職場の片隅で細々と行っていた。それを見つけたタクマが大袈裟に喜んで、打ち込みの仕方や機材のいじり方を教えてくれた。そうして克馬は当時の同級生とバンドを組んで、中学生ながらSNS上で覆面バンドとして認知度を上げていった──。

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