1話-16
ハッと我に返った私は、ソファーから立ち上がって叫んだ。
「さっきから十二支が部活がって話をしてますけど、そもそも私は部活に入れてないんです! どうしてこの学校は部員数を制限するんですか!」
一瞬辺りがシーンとなり、大柄の男性が鼻で笑った。
「おいおいどうしたんだ今年の一年生は。何日もあったっていうのに、部活に入れなかったなんて」
「大沢先輩、羽月さんは入学式で倒れられて、本日やっと登校しました。入部希望書を出されてませんでしたのでもしかしたらと思ってましたが ──」北野川さんが大柄の男性──大沢先輩に説明をしているが、最後は何か考える様な仕草をし、テーブルに落とした視線を修弥に向ける。(しゅうちゃん、また何かやってくれたな?)
「そうか。無粋な事を云ってすまなかったな。会長、部員の枠はもうないのか?」大沢先輩はすぐに謝り、会長に話を振った。
「すまないが、今年はもう既に定員に達しました。羽月さん、すまない。君には実力で部活動を勝ち取ってもらいたい」
「どういう事ですか?」私は嫌〜な予感がして、ジト目で会長を見る。
「文字通りの意味だ。君は下克上で勝って、陸上部へ入ればいい。たしか資料に──おっ、北野川気がきくな」会長はテーブル上の資料をガサゴソ探し始めたが、すかさず横から北野川さんが紙を渡した。「君は陸上部を希望していたのだろう。希望書は提出されなかったので今日の時点で入部はできていないが、先程の『下克上』で陸上部に勝つ事ができれば、その分の尻はこちらで持とう」
一体どうして私が陸上部を希望しているかを知ったのとか、なのに入部させてくれなかったのか等お役所仕事ぶりを見せつけてくれる会長に腹が立ってきたのだが、目線の手前側にいるキラキラとした目でみてくる春日野さんと目が合い、ちょっとたじろいだ。
「羽月さんは陸上部希望者なんですか? 何メートルですか? どの位早いんですか? 私なら大歓迎ですよ! 早速勝負しますか?」もの凄い勢いでまくしたててくる春日野さん。もし彼女が犬であれば尻尾を大きく振るんだろうが、猪である。
「駄目だ、春日野。入部するなら勝負に勝ってからだ」「うっさいですよ、朱雀先輩。なら私から勝負を申し込ませていただきます」「ならん」
一体どうしたのか二人とも感情的に会話をしている気がする。周りが驚く中、生徒会の黒崎さんと北野川さんは気のせいか笑っている様に見える。
「どうなんだ羽月さん。やるのかやらないのか」
「是非やりましょう!」
「はい! 下克上させて下さい! 春日野さん、よろしく!」
もうどうにでもなってしまえ。