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花束を持って、君と  作者: 雲雀ヶ丘高校文芸部
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6話-5

 ──ここは芹ヶ谷公園。

 小田急線町田駅から徒歩十数分、真ん中に道路を挟んで、自然の散策が楽しめる緑と水に囲まれた西側と、春には花見客で賑わう多目的広場と巨大な噴水のある虹と水の広場、山の斜面に作られた子供たちが泥だらけになって遊びを体験できる冒険遊び場や、隣には国際版画美術館も併設されている東側に分かれている。

 美術館への道にせせらぎが流れている他、巨大なシーソーから水が滝の様に流れ落ちる噴水をはじめ、園内のあちらこちらに水を感じることが出来る。そのシーソーを代表に、そこかしこに彫刻が点在しているのも特徴だ。ターザンロープや巨大な滑り台も用意されていて、どこにいくにも園内を歩き回る事から、子供にとっては大冒険になる。一日中楽しめて、夜はぐっすり眠れそうだ。──付きそう保護者は可哀想だが。


 何も持たずにフラフラと辿り着いた克馬は、錆びた階段を一段づつ降りていった。ちょうど道路からすぐ近くの遊具広場に降り立った克馬の視界には、ターザンロープの順番待ちで喧嘩する子供たちと、それを宥める母親の姿が見えた。

 そのまま散策を続ける。寒くもなく暑くもない、ちょうど良い気候に恵まれて、青々とした葉の生い茂った隙間から溢れる日差しを浴びながら、川伝いにゆっくりと歩いた。西側の端っこまで歩くと、折り返して今度は道に沿って歩き出す。元いた場所まで戻ったので、道路の下のトンネルを潜り抜けて反対側に出る。

 反対側には広場があり、丸いオブジェや水場に光が当たり、涼しい風も吹いて心地いい。フリスビーやダンスの練習をしている人たちがいて、もう桜も咲いていないのにレジャーシートの上で酒盛りしている人たちの姿も見受けられる。フリスビーをしていた女子中学生たちが克馬の姿を見て惚ける。嬌声を背中に受けるが気にせず歩みを進める。

 低い木がいくつか並んでいて、その奥に巨大な建造物が聳え立っている。

 風車なのか時計の針か、シーソーと呼ばれるそれは太い棒の上の方で水を溜め込んでは、宙高くから水を注ぎ込んでいた。まだ水もそれほど温かくないのに、一人の小さな女の子と父親が、裸足になって噴水の中を歩いている。シーソーが水を吐き出す度に二人は滝を避けて、きゃっきゃと楽しそうに笑い合う。すぐ近くのベンチに家族と見られる女性が座り、横に置いたリュックや鞄にみんなの帽子を乗せて、自分は休んでいる。


 その時、克馬の視線はある一点を見ていた。


 親子がいる所から噴水を挟んで反対側、水しぶきに隠れてうっすらと影が見える。

 影は何かを抱えていて、楽しげなメロディーを口ずさんでいる。近づいていくにつれて音は大きくなり、誰かが弾き語りをしているのが分かった。

 その声はよく通る良い声で、弾くギターはスキップでもしてるかの様な軽い音色を響かせていた。噴水の周囲を巡る様にゆっくりと影に近づいていくと、その縁に腰掛けて目を閉じたまま気持ちよく歌っている少女を見つけた。

 克馬はちょうど彼女の正面にベンチを見つけて、そこに腰掛けた。そのまま目を閉じて少女の歌声に耳を澄ませる。

 不思議な音色だった。目蓋の内側では夜の帳が降りてきて、克馬は自分の心が落ち着くのを感じた。まるで夜の高速道路で車を走らせている様だ。左右を流れ続けるきらびやかな景色と、視界のずっと先の方に見えるテールランプの川の流れ。欠伸をした時に視界がぼやけて、白や赤い光が丸い虹の様に滲んで広がっていく。彼女の音楽はそれらを想起させた。克馬は脱力して、目を閉じたまましばらくその音に耳を傾けていた。

 

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