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花束を持って、君と  作者: 雲雀ヶ丘高校文芸部
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5話アフター

 一夜明けて──。

「……おはよう」

「……おはよう」「おはよう……ございます」

「「……」」

 ペンションの一階で顔を合わせた三人。どの顔にも目の下に大きなクマが出来ていて、一目で寝不足だと分かる。

「どう? あれから眠れた?」

「この顔が眠れた顔に見えるなら、一華ちゃんは多分寝不足だからもう一度眠った方がいいよ」

「そうですよ。一華さんは私たち以上にお疲れのご様子です」

「「……」」

 沈黙の時が流れる──。何も話す事がないと皆、自分の目蓋が重くなってきて、どんどん睡魔に襲われる。眠気によって船を漕いだ反動で目覚めた一華が、思い出した事を呟いてみた。

「あっ、そういえば羽月さんはあれからどうかな?」

「真央さんなら私たちと違う意味でぼ〜っとしていますよ。ご覧になりますか?」

「?」


 三人は真央の部屋の前まで辿り着いた。

「真央さん、真央さ〜ん! 入りますよ!」

 チョコは扉を開け、づかづかと中へ入っていく。ベッドの上で上半身を起こしたまま放心している真央に近づいて声をかける。

「真央さん、おはようございます」

「ほわわ〜」

 声をかけられたのに気づかない様子の真央。彼女は頬を赤く染め、潤んだ瞳のまま遠くを見ている。

 しばらく声をかけたり、身体を揺すってみるが、全然反応しない真央に首を振ってこちらに戻ってくるチョコ。

「……どうしたんですか、あれ?」

「昨日からずっとあの調子ですよ。ね、鈴森さん」

「はいです。真央ちゃんは心ここにあらずでぽわぽわしているんです」

(それはきっと、倉多さんがいらっしゃったから。ですが私はその事を誰にも話せない! くうぅぅぅう〜!)

「真央さ〜ん! 元に戻って下さいよ〜」

「ほわわ〜〜」

「まさかまだ熱があるんじゃ!? じ〜」

(わたしの! わたしのせいだあぁぁあ!)

 寝不足で頭が回らず、四人がそれぞれおかしな動きを始める。その時、ドアが開いた。


 ──ガチャリ。


「あなたたち──、一体何をやってるの?」

 ドアから顔を出したのは、北野川優穂だった。







「それで、あんな渾沌としてたのね」

 食堂に移り、各々コーヒーやカフェオレを淹れる。一息ついてから優穂が切り出した。

 説明を受けて状況を理解した優穂は、両手をカップに添えて、息を吹きかけた。「もう落ち着いたのかしら?」

「はい……。なんであんなに取り乱したんでしょうか?」

「寝不足って怖いですねぇ」

「あれは完全に黒糖先輩が悪いよ!! 先輩の話があまりにも怖いせいで寝不足だよ!!!」

 昨夜の事を思い出したのだろう。その場でもギャーギャー云っていた一華は再び声を荒げる。

「ふふっ。うちの黒糖の怪談はそんなに怖かったかしら?」

「怖いなんてもんじゃないですよ!!? あれから日付けが変わるまでみんなで同じ部屋に集まって怯えてて、仕方なく眠ろうってベッドに横になっても、オバケの姿が脳裏をよぎって全然眠れませんでしたよ!!!」

「あらっ、オバケなんて迷信よ。いないいない。」

 大人の余裕を見せつける優穂。たった一年しか変わらないのに、一年三人組は彼女を尊敬の眼差しで見る。

 カフェインのお陰で調子を取り戻した三人は、優穂がこのペンションまで足を運んだ理由が気になりだした。

「先輩は何しにここにいらしたんですか?」

「そうだったわ! あなたたちに挨拶に来たのと、昨日観客席の私の隣にこちらの管理人夫妻がいらっしゃってお世話になったの。観ている間にしたお話がとても弾んで、ついでにお礼をしようと思ってね。今度こちらのペンションにお邪魔になるかもしれないしね」

「なら私が案内します」

「私も!」

「皆さんが行くなら私もお付き合いします」

「ほわわ〜」

「真央さんは休んでてください……」


「こちらです。管理人さ〜ん! 奥さ〜ん!」

 四人は管理人室前までやってきた。ドアが開いているので声をかけながら入る。

「おや、料理部のお嬢ちゃん。何かようか?」

「あらあら、みんなで一緒にどうしたのかしら?」

 管理人室には管理人夫妻が揃っていた。

「こちら、大道芸研究会に所属している、北野川優穂先輩です」

 一華が優穂を二人に紹介する。

「おおっ、昨日の子か。北野川って云うと、あのコップをポンポン投げてた。あれは素晴らしかったぞ!」

「素敵だったわねぇ。思わずうっとりしちゃいましたよ」

「……」

「優穂先輩、どうかしたんですか?」

「あの……この方たちは?」

「何云ってるんですか。このペンションの管理人夫妻ですよ」

「君からは見えなかったかな? 会場では結構後ろ(・・)の席に座っていたからな」

 ガハハと大きな声で笑う管理人。後ろにそった拍子に、ふさふさの髪(・・・・・・)が波打つ。髭を綺麗に剃った(・・・・・・・・)顔は、自慢の真っ白な歯を剥き出しにしている。

 豪快に笑う管理人と反対に、静かになってしまった優穂は目が泳ぎ出し、額に汗をかきはじめた。そして、彼女の視線はある一点で止まる。

 それはアンティークの小物と共に置かれた、一枚の写真立てだった。

「! この写真!!?」

「ん? どうしたぁ?」

 写真を見て顔が青ざめていく優穂。段々と変化していく先輩の表情に雲行きが怪しいと感じ始める三人をよそに、管理人は優穂が見つけた写真立てを指でつまむ。「これか? 良い写真だろ。

 これはな、先代とその奥方と一緒に撮った写真だよ。引継ぎが終わる時に記念に撮ったんだ」

 そこには、目の前にいる管理人夫妻と、昨日隣の席にいた(・・・・・・・・)老夫婦が映っていた。「あの後すぐに亡くなったって報せが届いて、少ししんみりしちまったんだよなぁ。奥方も後を追うように翌年亡くなって……」

「あの時は悲しかったですわ。

 それでもあの人たちと触れ合った思い出があるから、あの人たちが大事に守ってきたこのペンションを私たちも大事にしようって決めたんですよね。それこそ我が子のようにって」

 良い話。とても良い話である。一年三人組は感動して泣きそうになっている。そして泣きそうになっている者がもう一人。

「ぶくぶくぶくぶく……」

 緊張の糸が切れたのか。突っ伏す様に地面に倒れる優穂。

「ああっ! 優穂先輩!! どうしたんですか!!?」

 写真に描かれた真実を知ってしまった事で、優穂はこれ以上ないダメージを負ってしまった。

 薄れゆく意識の中で、優穂は考える。


(ならあの時私が会ったのは、幽霊──)


「大変!! 優穂先輩白目剥いて泡吹いてる!!? 管理人さん! ベッドベッド!」

「大丈夫かぁ!? すぐに用意するから待ってろ!!!」

「鈴森さん!! 愛理先輩にすぐ連絡して!!!」

「愛理さ〜ん!!!」






◎北野川 優穂


 今回の「下克上」の相手。

 二年生。大道芸研究会で、未の能力を持つ。能力名は「綿毛フラッフィーウール」。「フワフワ」と「シットリ」の毛を投げる。「フワフワ」ははね返り、「シットリ」はベタベタとくっつく特性がある。

 実はもう一つの能力がある。防衛本能なのだが、他者の視線を感じると生命の危機を覚える代わりに羞恥心を覚えてしまうという能力。その為、変身時に人前に立つのが苦手。副部長との特訓で徐々に克服しつつある。

 変身すると大事な所が羊毛で隠れる以外はほぼ全裸になる。そして服飾部は衣装を作らない。頑張れ。





 ──追記。人一倍オバケが苦手。毎年この島での合宿でオバケが出る話を聞いているので、芸を披露する時に自分の殻に閉じ籠る癖がある。

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