1話-15
会長が巻物を取り出した。
「ここにはこう書かれている。『十二支の力を授かったのは何かのご縁。本来のやり方にて神様への感謝を示すべし──下克上』
教師は晩年になって考えた。十二支が複数現れるのであれば、ゆくゆくは全てが同時に現れるだろう。その時再び神様に感謝を伝えるにはどうすればよいか。そこで考えられたのがこの『下克上』システムだ。
四月から翌年三月迄の一年間を神様の元へと辿り着く時間とし、それまでに互いを競い合わせ、相互に刺激を与える事で成長し、その成長具合を神様に報告する事で感謝の代わりとする、と。
毎月頭に各部活にヒアリングをする。自分より順位の高い十二支に、勝負を申し込むか、否か。
勝負を申し込む場合は、生徒会の方から順位の高い部活にもその事を伝え、月末に勝負をする。順位の低い部活が勝利すると、高い部活から次の内希望した物を受け取れる。
部費。部室。部員だ。」
ここで一年生はどよめく。二、三年生は自分たちも過去に同じような反応をしたのだろう。温かい目で見ている。
「反対に、負けてしまうと……何もない」先程より大きい声が複数あがる。「何もないが、順位の高い部活が少し優遇されるようになる。罰はないが、褒美はある。そんな感じだな。
それで、今年はさらにサプライズがある。羽月さんの存在だ」
古都会長が私の名前を言った途端に、皆の首が一度にこちらに回り、視線が集中した。
「ひぃぃぃ!!」怖い怖い怖い。
「まさかこの先を読むことになろうとは」古都会長は巻物をさらに広げる。そこには続きが書かれていた。呆れた表情になった会長は、お茶を一口飲むと読み始めた。「『若しその年に猫が現れた場合、可哀想だから参加させてあげなさい。それが本当の下克上になるのだから』──まったく、なんなんだこれは。羽月さん、君も挑戦者になれるんだ」
その時のポカーンとした、あまり理解出来なかった私の顔を、一斉に見ていた皆は一体どの様に思ったのだろう。