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花束を持って、君と  作者: 雲雀ヶ丘高校文芸部
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5話-19

(何か、何かないだろうか……)

 私は辺りを見渡した。空を見上げて、ゆっくりとこうべを垂れる。そして私の持つ魔法を見つけた。

(あった)

 それは私の両手だ。

 私は自分の両手をじっと見つめた。

 今まで私は猪突猛進(ゴーアヘッド)一本で戦ってきた。けれど同時にそれは限界を自分で決めていた事に他ならない。

 もし脚だけではなく腕にも能力が得られたなら、あるいは先輩と対等に戦えるかもしれない。

 久しぶりにデビルスティックの練習をしていたら、たまにスティックが腕の延長に思う瞬間があった。腕が自由にしなって、思い描いた通りの動きを再現する。

 私はその感覚を捉えようとしたが、あと少しの所で逃げられていた。

 手を太陽にかざしてみる。太陽の光が透けて、掌の内側を流れる血液の色が浮かび上がる。確か何かを掴みそうな時もこんな感覚だった気がする。

(あれはもしや新たな能力なのでは?)

 どうすればあの感覚を完全に物に出来るか私が両手をグーパーしながら考えていると、

隣から視線を感じた。

 振り向くと体育座りで首を傾げた一華ちゃんが上目遣いにこちらを見ていた。目が合うと、

「ん?」

と訊いてきた。

(はわわわわわ)

 なんだこの可愛い生き物は。

「さっきから手をグーパーして、新しい技でも思いついた?」

「い、いえ。もう少しで何か掴めそうなんですが、あと一歩のところなんです」

「こらっ。け・い・ご!」

 一華ちゃんが究極の自撮りの様な角度から至高のめっ(・・)を繰り出した。甘い声で囁きながら人差し指をおでこにちょんと当てられて、会心の一撃!!!

「はわわわわわ」

(一華……恐ろしい子。この天然ぶりで松本先輩を籠絡したのね)

 私は一華ちゃんの自然に見せる男殺しのテクから恥ずかしさのあまり思わず四つ足で逃げる。これも動物の本能の為せる技か。






 ──その時だ。






 地面に着いた手がキュイイイインと音を立て、腕がぼんやりと輝きだす。血管が透けて見えて、地面を弾く腕が爆発的な力を生み出した。

「うわっ!!」

 力の向きを間違えて私は思いっきり上方向に跳んでしまう。慌てて姿勢制御をして着地した。驚きで言葉が出ない。

(今のは一体なんだ……)

 呆然とする私に変身した一華ちゃんが駆け寄ってきた。

「チョコちゃん、大丈夫!!?」

「ええ、たぶん……」

 とにかく今の出来事を整理しよう。私は何を考えた? どういう行動を取った? あの時一華ちゃんの悩殺ポーズから逃げ出して……獣の様に四つ足で駆けていって……四つ足?

(まさか)

 私は自分の考察が間違っていないかすぐに確認する。腕に意識して力を込める。

「……出来た」

 腕がぼんやりと光り血管が透けて見える。先程は爆発的な力を生み出したが、今度は細かい動きをとても器用にこなす事が出来た。

 キュイインと鳴る腕を側で一華ちゃんも確認する。そして二人で顔を見合わせて抱き合った。

「一華ちゃん! 私出来た! 新しい能力に目覚めた!!!」

「凄い凄い! どうしてそんな事が出来るの!? やったね!!!」

 喜び合っていた私たちだが、この時唐突に一華ちゃんのお腹が鳴り響いた。

 ──ぐうぅぅぅ。

「ひえっ!?」

 慌てて顔を真っ赤にしてお腹を抑える一華ちゃん。少し涙目になってこちらを見上げる。だからその仕草が男たちを殺すからやめて欲しい。

「ほ、ほらっ。そろそろお昼を食べよ? 真央さんの事も気になるし、ね?」

 私なりにフォローをする。一華ちゃんはこくこくと頷いて、私たちは辺りに散らばった道具を箱に片付け始めた。

 低い山の上とはいえ、少し汗をかいた。これはもう一度シャワーを浴びなきゃいけないなと考えていたら、「そういえば」と一華ちゃんが思い出したかの様にこちらを見た。

「チョコちゃんは今の能力にどうやって目覚めたの?」

「あれ? あれはこの両腕を別の物に見立てて猪突猛進(ゴーアヘッド)の力を応用させた物だよ」

「別の物って?」

 あまり云いたくないが事実なので話そう。

前脚(まえあし)……」

「まえあし……」

(うっ、うっ)

 何が悲しくて友達に自分の腕が前脚だって説明をしなければならないのだろうか。ほら、気まずくなってしまった。

 片付けの最中に私の顔から光る物が落ちた。きっと影に隠れて見られずに済んだが、それは汗ではなかった。ぷひっ。

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