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花束を持って、君と  作者: 雲雀ヶ丘高校文芸部
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5話-17

「──以上で私の話は終わりです」

「敬語」

「あっ!」

(しまった。自然とまた戻っていた)

 人間気を付けていても昔からの癖は中々治らない物である。私の場合、秋田弁から標準語に移行する時、参考にしたのが両親が外行きの時に使う敬語だった。なので、これが(・・・)自然体なのだ。

「ま、いいけど。今のも説明だもんね。うふふ」

 その事は一華ちゃんも知っているのだ。それで彼女は私が遠慮しない様にからかったり頬を膨らませて、面白おかしくしようとしている。

「それで、そのスティックがその時作った物なの?」

「私も気になります。なんだか年季が入っているし、もしかしたらって」

 鈴森さんがいつの間にかフットバッグを本来のやり方で遊んでいる。器用に足の甲に乗せ、蹴り上げてももを通し反対の足の甲に移動させる。

(おおっ、中々上手いっ)

 とてもスムーズだ。

 隣で一華ちゃんが目を丸くしている。きっとお手玉か何かだと思っていたのだろう。最初は私も同じ事を思っていたのでよく分かる。

 二人を見回して、私は首を横に振った。

「違うよ。その時作ったスティックは二つともお兄さんに渡したの。お兄さんから貰ったのは、お兄さんがずっと使っていたお古。けれどそれもゴムが剥がれて貼り直して、それでもある日棒が折れてしまって。これは二代目なの」

 自分と子供の使用頻度を比べてみて古い方をくれたのだろう。彼のは彼ので既にボロボロか新しく買っているに違いない。

 私は片方のハンドスティックに地面に立てたセンタースティックを立てかけて、まずはゆっくり反対側に交互に叩く。そしてひょいっとスティックを浮かしてからは、リズム良く叩いた後一本のハンドスティックでセンタースティックを横回転にくるくる回してみた。軽く下から叩き続けると面白い様に回る。そして再び二本の棒で交互に叩いて浮かし続けた。

「基本の動きはこのアイドリングという動き。回転したセンタースティックが水平になった位で端っこを上に叩くっ。ほらっ、こうしてゴムとゴムが反発しあって勢いよく跳ね返るの」

 今度は真正面から見たら扇風機や風車の様に回す。「色々と技はあるんだけど、私はそれだけで勝負はしないつもり」

「何か作戦があるの?」

 一華ちゃんが期待した目で私を見る。

「うん。私はこのデビルスティックで物語を語りたい。子供の様な素直な気持ちになれる、素敵な物語を」

 私は計画を二人に話す。一華ちゃんには協力を申し出て、鈴森さんには許可を貰う。

「面白そう! 是非協力させて!」

「私は審査役なので協力は出来ませんが、それは興味深いですね。時間がそれほど長くなければ良いと思いますよ。互いに盛り上げていただければそれが一番ですから」

 許可を貰えただけで充分だ。本番は是非鈴森さんにも楽しんでもらおう。

「なら、まずはさっき約束した通り、一華ちゃんに一通り遊んで貰おうか」

「本番の練習はいいの?」

「それほど作り込まなくていいよ。殆どアドリブで構わないし。それより一華ちゃんにはジャグリングがどういうものか身をもって体験して欲しいからね。え〜と、どれからにしようか……あれっ? 誰か近づいてくる」

 ペンションの方からバイクに跨ってきたのは、北野川さんのお姉さんの方だった。生徒会の鈴森さんに何か用でもあるのだろうか。

 私が鈴森さんの方を見ると、彼女はぎくぅっ! と擬音が聞こえてきそうな表情をしていた。顔を引きつらせながら少しずつ後退っていく。

「ひぃっ!!? や、やばい……」

「こらぁ、鈴森! いつまで油を売ってるの!」

 脱兎の如く逃げ出す鈴森を、愛理先輩がバイクで追いかけ首根っこを掴む。「あんた審判でしょ!? 審判が片方にずぶずぶ首突っ込んでどうするのよ! ほら、さっさと戻るわよ!」

「いやですっ! 私はまだお二人と楽しくジャグリングしたりお話したりしてたいです! 離してください! 春日野さんっ! 舞咲さんっ! 助けてっ!」

 鈴森さんが暴れながら私たちに助けを求めるが、どちらが悪いのかは一目瞭然なので私たちは黙ったまま目を逸らした。

「ああっ! 裏切り者っ!?」

「うちの鈴森が失礼をしました。オホホ」

 愛理先輩がそのまま鈴森さんを引きずって遠ざかっていく。「お二人とも夕方を楽しみにしてますよ〜、ぐえっ」鈴森さんは捨て台詞を吐いている途中で舌を噛んだらしく、そのままぐったりとした姿で引きずられていった。

「「……」」

 私たちは唖然として顔を見合わせる。

「よしっ。まずはボールからね」

「うん、よろしくお願いします」

「「……」」

 これから鈴森さんの身に降りかかる事を考えると申し訳ない気持ちで、私たちは静かに準備を始めたのだった。

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