5話-13
疲れたら休憩だ。お腹が空いたらご飯を食べる。特別な島に来た時は、それに見合った特別な料理でないと気分が出ない。昨日島に着いた時のお昼ご飯は、それぞれが準備したお弁当やおにぎり、コンビニのパンだった。船で釣り上げたお魚をお刺身にしていただいたが、私の持ってきたメロンパンと青魚の刺身は相性最悪だった。
でも今日は最高だった。料理研究会の人たちが朝パンを沢山焼いたらしく、島内にいる他のみんなにも分けてあげようってこちらまで持ってきてくれたのだ。お陰で最高のランチにありつく事が出来た。
料理研の人たちは私に声をかけてくれた。
「北野川さん、夕方私たちも観に行くね」
「ありがとう。今日は春日野さんとの『下克上』の他に、大道芸研究会での催しもあるからね、楽しみにしてて!」
「楽しみだよ〜。
そういえば、春日野さんたち朝少し変だったんだよね」
「そうそう」
「変?」
何かあったのだろうか。
「うん。なんかうちの一華と生徒会の鈴森さんと一緒になって大泣きしてた。食堂で随分感傷的になってるからみんな注目してたんだけど、一体何があったんだろう」
「私、それ知ってるよ。羽月さんが倒れて、彼女の意志を継ごうと春日野さんが立ち上がったんでしょ?」
「私は羽月さんが仮病を使って春日野さんに無理矢理『下克上』を押し付けたって聞いてるよ?」
「みんな違〜う! 春日野さんは陸上部の元代表だったでしょ? でも羽月さんが来てから自分の陰が薄くなったから……毒を盛ったんだよ。それで協力していた一華と鈴森さんに成果を報告して、喜び合っていたんだってば!」
そんな馬鹿な事がありえるだろうか? もしそうだとしたら大問題になり、即刻私たちも強制送還になりそうなものだが。
「馬鹿っ! そんな訳ないでしょ!!
すみません北野川さん。この子、いつもこんな事ばっかり云って」
「雪ちゃ〜ん。そりゃないよ〜」
ダークな発想をしていた背の低い元気な子を、背が高いが少し幼い顔立ちの子が叱る。二人とも一年生だろうか?
「いいんです。でも、私もその話少し気になるわね……。ありがとう、その、教えてくれて」
「いいんですよ〜てへへ。っ痛たぁ!」
「あんたの事じゃないわよ。なら、私たちはこれで……」
「ええ、パンありがとね!」
「は〜い! 是非美味しく召し上がってください! ほらっ、すたすた歩く!」
「うへぇ〜」
遠ざかる彼女たちに手を振っていると、先程怒られていた人が振り向いて無邪気に手を振り返した。そして雪ちゃんと呼ばれる人にまた怒られてしょぼんとする。雪ちゃんも私に手を振って、料理研究会の人たちは車に乗り込んで次の場所へ出発した。
「雪……相変わらず容赦ないねー」
ふと見ると横に副部長がいた。
「お知り合いですか?」
「ええ、同じクラス。怒られていた子もね」
すると三年生だったか。同学年か下級生と思い、つい馴れ馴れしい態度をとってしまった。
「私てっきり同学年か後輩かと。失礼でしたかね?」
「いやー、あっちはあまり気にしないと思うよ。周りの子たちは下級生だったしね。
ちなみに雪ちゃんはうちの白玉の彼女」
「えっ!!?」
(白玉先輩彼女居たんだ……)
驚く私に副部長は説明する。三年生なら誰でも知ってる情報だそうで、別に本人も隠していなく堂々と付き合っているらしい。
「意外でしょー。あいつ見た目より彼女を大事にするタイプなんだよね。雪もそうとう大事にされてるよ。んで、その雪に怒られていたちっこいのが黒糖の彼女ね。うちの二人の力関係が恋人はそのまま反対になってるのー。面白いねー」
「黒糖先輩まで……」
完全にノーチェックだった。まさかあの女っ気のない、いつも二人でつるんでいる先輩方が両方彼女持ちだなんて。
副部長から二人は恋愛を部活に持ち込まないという決意を持っている事を聞いた。知られても構わないが、わざわざ知らせることでもないと。
「あの四人は幼なじみなのよー。昔からの自分を知る存在って、強力な絆が生まれるか空気になるかだけど、白玉たちは前者だったねー」
その言葉を聞いて、私の頭には愛理が浮かんだ。愛理は魂の片割れで、もう一人の自分で、足りない所を互いで補いあってきた存在だ。
今回の「下克上」に愛理は来ない。私はまた彼女の知らない時間を過ごす。
その事を愛理はどう思っているのだろう──。