4話-28
月卯がタックルを仕掛ける直前、真央たちもついに動いた。
「行くよ。これが最後の全速力」
『はい! ぶちかましてやりましょう!!』
全神経を脚に集中する。
イメージは簡潔に。──ただ速く。──ただ真っ直ぐに。
『「……猪突猛進」』
二人が呟いた途端、横から月卯のハットトリックがタックルをしてきた。しかし、一瞬前にその場にいた影は、既に一歩前へと進んでいた。
──一歩、また一歩。足取りを早く、一歩でも前へ。常人には考えも及ばないスピードで、地面を蹴り上げる。
もはやレースは関係ない。よーいどんでスタートした三台での競走。その中で自分たちがどれだけ速く走れるか。それだけを念頭に全力を出す。
そして──一歩。また一歩。スロウモーションで風景が流れ、ゴールに近づくと云うよりは、ゴールが近づいてきた。自分たちはそこに立って、地球を蹴りつける。その勢いで地球全体が周りだす。
玉乗りをしている感覚で地球から転げ落ちない様に蹴り続ける。
「グッドラック!!!」
無線越しに月卯の声が聞こえた。
『「はい、松本先輩に勝ってきます!」』
プッシーキャットは羽の様に軽く、地面を撫でる様に進む。
「どうしてだ! どうしてなんだ!!!」
伊吹が驚愕して、少し手元が狂う。マシンが減速したのを見逃さず、プッシーキャットが横に並んだ。
前方から映すドローンとは別に、後方からの映像が映される。
「おおっとぉっ!!! み、皆さん! 衝撃の事実です!!! 春日野選手の不在で一人戦っていた羽月選手ですが、なんと!!?」
あまりのスピードに徐々にプッシーキャットの後部が浮いてくる。そして、その無駄と思われていた突起部分の下が見える様になり、空洞部分には、全速力で走るチョコの姿があった。
「車の下に、春日野選手が隠れていたぁぁぁあ!!! これはどういう事でしょうか!!?」