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花束を持って、君と  作者: 雲雀ヶ丘高校文芸部
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4話-24

「ウインドブラザーズ速い!!! 既に最後の直線に入っております!!!」

「……まだ先頭集団とかなり差がありますからね。これは一着確実ですね」

 司会者たちも、モニター越しに見ている全ての生徒や教師、そして残りの生徒会の二人も、固唾を呑んで画面を見ていた。

 ──圧倒的。

 ウインドブラザーズはあまりにも速かった。他の追随を許さず、正に修弥の独壇場だった。

 十二支の実力の高さは、やはりお話と同じで神様に辿り着いた順番だとされる。それを彼は証明してみせた。

「毎年見る光景ですが……やはり子は強い」

 黒崎も思わず呟く。

 お話の中で一番にゴールした「子」の能力を発現する生徒は、神様に一番愛されていると云われる。歴代の「子」も物語同様に性格に難がある者が多いのだが、彼らは等しく能力も実力も、運さえも持っていた。今回修弥が一位になる事で皆がその事を再認識した。

「そして、続く先頭集団は湖を半分程走った所でしょうか!? 三台のマシンが並んで、火花を散らせながら走っています!!! ドローン、近づいて!!!」

 白熱しているレースをダイナミックに映そうと、さらに複数のドローンが集団に近づく。だが、一機のドローンが他のドローンと離れ、俯瞰したままそのレンズを海に向けた。何やら北側から幾つもの巨大な土の柱が立ち昇り、森を通って近づいてくる。

「な、な、な! なんでしょうか、あれは!!?

 まさか大沢選手のワールドチャンピオンでしょうか!!? 物凄い砂煙が舞っております!!!」






「本澤先輩! 宇佐見先輩! 二着の座は私がもらいますよ!!!」

 とうとう真央は二台の車の横に並ぶ。そして、さらにスピードを上げて引き離しにかかる。

「そうはさせないっス!!! ウチもまだまだスピードを上げるっスよ!!!」

「ちっ、次から次へと」

 離されまいと月卯も克馬も真央に喰らいつく。

 太陽の光が湖に降り注いで、きらめく湖面に周囲の風景が映っていた。おだやかな風が吹き、梅雨明けの晴れやかな空には餌を求めて飛び回る海鳥の姿がある。

 三台とも必死に二位争いをしているが、俯瞰で見るととても静かな光景だった。

 ドローンの映す映像がパッパッパっと次々と入れ替わる。フルフェイスのヘルメットが顔を完全に覆い、時折反射でヘルメットの表面を光が流れるウインドブラザーズ。横並びで走る真央、月卯、克馬。びしょ濡れでマシンに乗る円と、タオルを渡す龍美。素晴らしいドライビングテクニックで美しくマシンを見せる姫依。かいた汗を腕で拭う優穂と、ナビゲートをしながら空を仰ぐ愛理。元気そうに手を振る一華と紅律。森から飛び出てきて位置を確認する悠真。熱狂し立ち上がっている司会者と、落ち着いて座っているが、少し腰が浮いている解説者。

 横一列に並んだ三台の車を応援する様に蝉が一層鳴き散らし、鳴き声の隙間を縫う様にエンジン音とタイヤが回る音がする。

 島中に特大のアナウンスが流れる。

「ウインドブラザーズ、一着!!! 圧倒的でした!!!」

(一位は無理でも、二位なら!!!)

(倉多、やるっスね! ウチも続かないと)

(しゅうちゃん! しゅうちゃんしゅうちゃん!!! 待ってて! 夫婦でワンツーフィニッシュ決めようね!!!)

『真央さん! 声に出てますから!!!』

 嫌でも意識してしまう。既に一着の座はウインドブラザーズに奪われてしまったと。

 次にゴールするのは誰か。緊張感が玉の汗を額に浮かび上がらせ、順位が定まらない事に焦らされて、ハンドルを握る手が震える。選手たちの口元はひくひくしだし、やがてそれが伝播したのか、より感情が表に出てきて、思わずニヤけてしまう。

「ふん。なかなかやるな」

「そちらさんも……お陰でやる気がみなぎるっス」

『こんなワクワクした気分は真央さんとの……以来です』

「さいっこおぉぉぉぉお!!!」

 互いの粘り強さに称賛を贈り合い、けれど自分こそが先に出ようともがき、足掻く。

 身体中に電気が走り抜けて。刺激的なレースに感情を爆発させる真央。三人とも、頭ひとつ先に出たマシンが勝つと分かっていた。

((ここで俺・ウチ・私が勝つ!!!))

 三人がそれぞれペダルに乗せる足に力を込めた次の瞬間!






 ──森が爆発した。

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