4話-23サイド
知恵と勇気でなんなく橋を渡り終えた円と悠真。二人は視線を交え、笑みを浮かべた。目と鼻の先にクールスリーブの姿があった。
「これで私も三位だー!!!」
調子に乗り始める円。
「何云ってやがんだ!! お前じゃなくて俺が三位……って、円! うしろうしろ!!!」
悠真が円の少し後ろに視線を動かし、異常に気づいて声を荒げる。対して円は、
(また悠真の何かの作戦か?)
と訝しげに思ったが、何か焦げ臭い臭いがして、後ろを振り返った。
「ん? ……ぎゃー!!! 燃えてる! 燃えてる!!!」
「ぎゃははははっ!!! 何やってんだっ!」
先程橋を渡る時の火が燃え移り、アイラブアグリの荷台に積んでいた藁が盛大に燃えていた。
火を消そうと焦る円と、腹を抱えて笑いながらも、これはチャンスだと考える悠真。だが、神様は二人に平等だった。
「荷台に藁なんか積んでるから燃えるんだろ!? 子供でも分かるぜそんな事……ん? どぉわっ!!!」
空中から石飛礫が降り注ぎ、続いて岩が近くに落ちてきた。悠真は慌てて避け、どうした事かと空を見上げる。
実はこの岩たちは、先程の月卯のラクダ山への突撃の衝撃で生まれた物だった。あの時散らばった岩が、地面を走る悠真に降っているのである。
次から次へと落ちてくる岩を避けるが次第に余裕がなくなる悠真。彼にとどめを刺したのは、坂の上からやってきた岩だった。
「なんだよ、あれ……」
目が点になる悠真。悠真の視界には、巨大な岩がごろごろと坂を転がってくる姿が映っている。巨大岩は転がる度にスピードを増し、悠真の背中目掛けてどんどん近づいてきた。
「わ゛ぁー!!!」
「やっと落ち着けるよ。ふぅ」
クールスリーブの中で龍美はぐったりしていた。先程の事故に巻き込まれ、危うくマシンを燃やしてしまう所だった。クールスリーブが燃えたら、その中の龍美ももれなく黒焦げだ。
「「……ゃー」」
「あんな野蛮なの嫌になるよ。すぐに忘れてのんびりしよーっと。ああ、極楽極楽」
自動運転に切り替えて、仰向けに寝転ぶ龍美。下り坂で頭が下になるので、少し寝辛いかなと考えながら、空を見ていた。すると、何かがコツンとマシンに当たった。見ると小石が空から降ってくる。
「雹……じゃないよね。こんな天気良いし」
「「……きゃー」」
いくつかパラパラと落ちてくる小石がマシンにコツンと当たって、何やら後ろの方から大きな振動感じるようになった。先程から妙な声も聞こえる。
「なんだよ一体……」
龍美は身体を起こし、後ろを覗いてみた。
「「ぎゃー!!!」」
「……」
龍美の目に映ったのは、二台のマシン。
一台は円のアイラブアグリ。──ただし、アイラブアグリの荷台が燃えていて、酷い状態になっていた。
もう一台は悠真のワールドチャンピオン。──ただしこちらも、後ろを転がって付いてくる巨大岩がセットになっている。
龍美は開いた口が塞がらなかった。先程ピンチを乗り越えたというのに、またもやピンチがやってきた。
「まずいまずいまずい! なんとかしないと!」
目の前に第四チェックゲートが見える。龍美は急いでゲートを潜ると、その先の湖に突っ込んだ。湖に逃げさえすれば、後は追って来れないはず。
振り向くと、悠真が岩に追いかけられそのままコースアウトし反対側へ消えていった。だが、円の方は必死の形相で龍美のいる湖の方へ向かってくる。
「うわーっ! どいてどいてー!!!」
「い゛っ!!?」
急すぎて龍美は避けることができない。ドカーンと音を立ててクールスリーブとアイラブアグリがぶつかり、二台のマシンは湖に沈む。
──少しして。
ぶくぶくぶくと音を立てて、クールスリーブが浮上してくる。その下からアイラブアグリが姿を見せ、さらにその下に枝が成長して絨毯の様に広がった足場が上がってくる。円の能力「成長」で成長した水中に生えていた木が二台のマシンを水中から持ち上げたのだ。
藁の火は消えたものの、クールスリーブとアイラブアグリは共に大量の水草が絡まっていた。アイラブアグリの荷台には魚も跳ねている。
「立川くん……ごめん」
「う゛う、いいですよ……」
申し訳そうに手を合わせて謝る円。その姿を見て、そして流石に上級生に対して文句を云えない龍美だった。水草はプロペラにも絡まっていて、外すのに時間がかかりそうだった。
(あ〜あ、これじゃ優勝は無理だな。トホホ)
龍美は心の中で小さくため息を吐き、びしょ濡れの円の手助けを得てクールスリーブのプロペラに絡まった水草を外し始めた。