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花束を持って、君と  作者: 雲雀ヶ丘高校文芸部
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1話-10

 気がつくと、私はベッドの上に寝かされていた。

 「ベッドの上に」という表現は、「ベッドに」に置き換えても一向に構わないはずだ。なんせ「ベッドの下に」なんてことはありえないからだ。これは多分よくある怪談話でベッドの下に包丁を持った男がいるだのなんだのという話があるせいで、上だの下だのという説明が増えてしまったのだ。「椅子」に座る事を「椅子の上」に座るとは云わない。なので、私は「ベッドに」寝かされていた。

 そんなことを考えている場合じゃない。ここは何処だ? 普通に考えて保健室だろう。まずは情報の整理を。ここは何処だ? いやいや。

 何故私がこんなに混乱しているかというと、ひとえに恥ずかしかったからだ。

「うわぁ〜、やってしまった」頭を抱える。恥ずかしすぎる。よりによって入学式に倒れるか? あ、なんか身体がぼぉ〜っとする。

「大丈夫?」ベッドの前のカーテンが話しかけてきた。「開けるわよ。っやだ。顔が赤いわね」カーテンから可愛い人間が出てきた。背の低い、白衣の天使が。

「あなたここが何処だかわかる? 入学式で突然倒れて、この保健室に運び込まれたのよ」天使は保健室の先生だったのか。それにしては童顔とその話し方がミスマッチなのがまたなんとも云えない、コスプレしてごっこ遊びをしているかのような。なんだろ、ほっぺもプニプニだぁ。

「聞いてるの、羽月さん?」あ、怒った。怒った顔も可愛いな、えへへ。「あなたを背負ってくれた彼にも後でお礼を云っておきなさいよ。慌てて走って飛んできて、すぐさま背負って保健室まで連れて行ってくれたんだから」先生、そんなに可愛い顔してるのに、眉間にちょこんとシワが寄って、それがまた可愛い。

「それきっとしゅうちゃんです。先生、ありがとうございました。帰ります」そういって立ち上がろうとしたが、腕に力が入らなくて、がくん、とベッドの上に崩れ落ちた。

「あなた、まだ全然本調子じゃないでしよ。この事は親御さんにも伝わってますから、ゆっくりしていてちょうだい」

「はい……、すみません」

「あなたが目を覚ましたから、ちょっと席を外します。色々と報告をね。

 脱走しようとしたら、承知しないわよ」

「はい……、すみません」私の声は届かなかっただろう。先生は既に保健室の外へ行ってしまった。

 と、コンコンとドアを叩く音がして、ガラガラとドアが開いた。静かにドアが閉まり、ツカツカという足音が近づいてきた。

「真央、いるか?」修弥の声がする。

「しゅうちゃん?」

「ああ、俺だ。入るぞ」そういってカーテンをあける。私を見た修弥はしかめっ面をした。「酷いな。体調悪いとは思っていたが、これ程とは」

「知ってたの?」

「部活勧誘の時、お前転びかけただろ。あの時支えた真央の身体、少し熱持ってた。それに、掲示板前での一件も、やけに大袈裟に肩で息してたしな。あれがトドメだろ」

いえ、トドメはあなたの代表挨拶です。とは云えない。「まぁ、よくもった方だよ。真央は頑張った」修弥は私の頭を撫ではじめた。嬉しすぎる。

「おばさんは今、配布物集めてる。お前の荷物もとりに教室に行くみたいだし、おじさんが車とりに家に戻ってるから……時間的にそろそろ迎えがくるな。安心して家で寝ろよ」

「絵茉や大和は?」

「あいつらは、お前の為にしっかり話聞いて帰るって。明日登校してきた時に浦島太郎みたいになられたら困るって」

「ははっ、馬鹿みたいっ」ここにいないけど、二人の優しさが伝わってくる。「後で二人には連絡しとくね」

「ああ、そうしてくれ。

 後は、云いたいことは色々とあるんだが、とりあえずこの後の事は俺に任せてくれ。真央が楽しい学園生活を送れる様、素晴らしい計画を立てたから、ジェットコースターに乗った気分でいてくれ」

「それはあっという間だね」私は笑う。

修弥もニヤッとする。「ああ、あっという間だ。この一年すぐ終わらせて、来年は同じクラスだ」

「しゅうちゃんが云うと、本当にそうなりそうだね」

「期待していてくれ。そして、いつだって俺を信じてくれ。俺は真央の為に動くってな」

「しゅうちゃんは私の為に動く。うん、信じる」私は小指を立たせた右手を出す。修弥も右手を出し、小指をからませる。背中に左手を添えて、私をベッドの上に寝かせる。そして、耳元でこう囁く。

「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のます。だけど明日から俺は、真実の為に嘘つきまくりだ」修弥が困ったような笑顔なのが分かる。続いて私が口を開く。「しゅうちゃんの嘘は、今まで沢山の人を救ってきた。私も幾度となく救われた。だから、また嘘をついてよ」

「了解した」私は安心したのか、眠くなってきた。修弥と交わした今の会話も、最後の方はよくわからなくて、夢心地で聞いていた。彼はそっと布団を私にかけてくれて、少し近づいてきた。頬に何か触れた気がしたけど、多分私の勘違いだった。

 そのまま私は再び眠りについた。

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