4話-11
「ここでクールスリーブが一気にトップへ躍り出たぁ!!!」
司会の声が島中へ響く。それぞれの耳にも届いて、それぞれが反応した。
「おい修弥!? なんでクールスリーブがトップなんだ!?」
「落ち着け。泳いだんだろ? 多分」
クールスリーブはホバークラフトのはず。地図を見る限り第一チェックゲートから第二チェックゲートまでは一本道のはずだ……ならば。
「ゲートを抜けてから湖に出たな。
安心しろ。この距離ならすぐに追いつける。まずはこちらの二台を抜かないとな!
青い管を吹いてくれ!」
「おう!」
大和は頭の中で修弥が云った事を整理しながら青い管を探し当て、吹く。考えながら吹いたせいか、少し力が中途半端だった。
それでも充分だった。吹いた途端に目の前のデンジャーと書かれたランプが点灯し、車内で奇妙な音がした。そして、キィィィィンと前の方で金属音が鳴り響き、車体がガタガタ揺れだす。
管を通った空気がバンバンうるさい音をたてながら、後ろのパイプから流れ出る。煙を噴きながらあっという間に加速して、前方の二台を抜き去った。
「うおぉぉぉぉお!!? な、な、なんだこれ、これ、これはっ!!!」
正面からくる衝撃で、身体が車体に押しつけられる。
「云ってなかったか? スイッチ一つでニトロエンジンが作動し、あっという間にマッハ迄到達すると云われている、通称『焙烙火矢』だ」
「な、な、なんで、そんなに、な平気なん、な、なん、だよ!」
「焦るな。これも修行の賜物だ。やり方は教えたはずだ。思い出せ」
(あの時のか……)
この間、真央たちの「下克上」の様子を観客席で応援した際に修弥から教えてもらった方法。
(あの時は視力強化だったが、今回はどうか……)
以前修弥に云われた時の様にしてみる。
──コツをつかめばあっという間さ。
成る程。確かに以前より早く環境に身体が慣れる。既に感覚に慣れた大和は落ち着きを取り戻していた。
「……ふぅ。って殺す気か!!! 修! この管全部どうなってるのか説明しろ!!!」
「しょうがないな……。多分もう使わないだろうが、暇だし説明するか」
せっかくの楽しいドライブなのにな。と修弥は残念そうな表情をする。大和がそれに対し再び怒るが、修弥が説明を始めると、不貞腐れながらも静かにその声に耳を済ませた。管の数は合計二十本あり、この後めちゃくちゃ説明した。
「やぁ〜〜。まさかあんなに簡単に抜かれるとは」
「部長もちょっと激おこぷんぷん丸だぜぇ」
「でもでも、猫さんも近づいて来たよ〜」
「さっきから色々投げてるのに、一つも当たらないんだよ」
「どうする〜?」
「安心しろ! これはどうだ?」
「「おお〜!」」
「しゅうちゃん早い! 私も頑張らなきゃ」
『真央さん、さっきからガンガンガンガンうるさいんですが』
「気にしないで。科学部が何か色々投げてくるだけ」
『気にしますよ! もしマシンに傷がついたらどうするんですか!?』
「大丈夫だって。……あっ!」
科学部員の一人が投げた小瓶がプッシーキャットのボンネットに当たり、蓋が取れた。
中身がこぼれ出し、舞い上がった中身の臭いを少し嗅いでしまう。
「にゃにゃ〜ん」
『真央さん!!?』
急にマシンがふらつき始めるが、すぐさま真央が気を引き締めて体勢を立て直す。
「あにゃつらめ〜!」
『どうしたんですか?』
マシンが再び安定したので、チョコがほっと息をついた。少し余裕が出来たので怒っている真央に原因を尋ねる。
「この間の『下克上』、舞咲さんたちとの対戦の時にまたたび使われたじゃん! それでそれ以降のまたたびは使用禁止になったんだけど」
下克上では出来るだけ能力を潰さない様な措置が与えられる。それは頭の輪に対する呪文を禁止したり、猫に対してまたたびを与える行為を禁止したりだ。
能力は自然に獲得したものなので、それを抑えてしまうと実力が出せなくなってしまう。その為措置によって守られているのだ。
反対にあまりにも強い効果を持つ能力は制限がかかるものもあるという。
「あの人たち、私に対してニットキャップを使ってきたんだ!」