4話-10サイド
「バナナ森に突入してから混戦状態が続いております! 先頭集団から少し距離をあけて、相変わらず横並びのアイラブアグリとワールドチャンピオン!!!
続いてアイムハングリー、ハットトリックが前に出てきたか!? ディスケ・ガウデーレ、ハーレクイン・シスターズ、センスオブワンダーは先程から位置が入り乱れております!!!」
「クールスリーブの姿が消えたのも面白いですね。森を抜けた先のチェックゲートで、何か番狂わせが起きそうです」
「うりゃ」
悠真が球の斜め上を蹴り上げると、丸太を悠々と越えていった。
「もおぉぉぉぉ!! なんなのよ、これ!」
反対に円は、アイラブアグリの角を突き刺して、そのまま他の丸太も巻き込んで一掃する。知らず知らずの内に後続のマシンは助かっていたのだった。
「アイムハングリー。見た目に反して早いっスね」
後続集団の先頭を走っている月卯の視界には、前方に荒らされた道しか映らなかった。悠真も円も、そして一華さえもこの集団から離れて先頭集団へ近づきつつあるのだろう。
時折降ってくる丸太をハットトリックの耳で弾いて走る。出来るだけ後続のマシンを巻き込む様に。妨害が反則でないなら、それもルールである。
「運転にもそろそろ慣れてきたので、少しずつペースアップするスかね」
月卯は段々とスピードをあげて、先頭集団を追いかけた。
「まじか」
前方の川に架けられている橋が大破していて一瞬躊躇してしまったが、これが不味かった。分身で川を飛び越える。または芭蕉扇で浮きあがる。他にも候補は幾つも浮かび上がるのだが、自分だけなら兎も角、マシンごと川を越えるのに必要な判断が出来ない。その隙を突いて、後続のマシンが仕掛けてきた。
「……綿毛」
「うぉっ!!?」
優穂の能力、綿毛である。
綿毛は、身体の羊毛を無限に増やし、それを色々な場所に投げつける能力だ。羊毛にはフワフワとシットリがあり、フワフワは当たった物体を跳ね返し、シットリは当たった物体にくっつく力を持っている。
伊吹に使われたのは後者で、マシンを絡めとる様にくっついた羊毛が地面にもくっつき、伊吹が前のめりになって地面に転げ落ちた瞬間に羊毛が消えた。
そんな伊吹を更なる不幸が襲った。
後ろから走ってきたのはセンスオブワンダー。
センスオブワンダーが転げ落ちた伊吹を轢きそうになる。伊吹としては変身姿で轢かれるのは全然平気だった。多分怪我もしないだろう。
けれど、センスオブワンダーは別だった。伊吹の燃える髪の中に突っ込めば、たちまちマシンが燃え上がってしまいレース失格になる。そう判断した姫依は慌ててハンドルを切った。そしてその先には置き去りにされていたディスケ・ガウデーレがあった。
ハンドルを切った勢いでディスケ・ガウデーレの車体に突っ込むセンスオブワンダー。そのフロント部分を姫依の鳥から放たれた翼が覆い、センスオブワンダーへの衝撃を吸収する。そして、翼を巧みに動かしてディスケ・ガウデーレを進路から弾き飛ばした!
「そんな……」
唖然とする伊吹をよそに姫依はセンスオブワンダーを停車し、降りて傷の有無を確認する。そして、確認が終わるとおもむろに鳥で木を削り出し、あっという間に橋を完成させた。
「すまなかった。この橋を通ってくれ」
そう云って過ぎ去る姫依。慌てて起き上がり自分のマシンの元へと行く伊吹。衝突のショックで分身は消えてしまっていた。
「畜生!!!」
(またやられた!)
缶蹴りに続いて今回も優穂の綿毛を喰らってしまった。それどころか、また髪の毛を抜いて分身を作る所から始めなければならない。これが少し痛いのだった。
大分遅れをとってしまった。急いで追い付く為に伊吹は迅速に行動して慌てて走り出した。
その様子を後方から紅律が中華龍で視力を強化して見ていた。いつでも飛び出せる様にマシンの屋根に控えていたのだが、どうやらその必要はなさそうだ。
「ふぅ。やっぱりレースにアクシデントはつきものね。怪我がなくてよかった。
それにしても、立川くんは何処に行ったんだろう?」
──ゆでたま湖。その湖上を一つのマシンが走っている。龍美の乗ったクールスリーブだ。
「ああ、極楽極楽。波の揺れが良いリズムになって……」
龍美はクールスリーブの自動運転に任せて、優雅に昼寝を堪能していた。