1話-9
修弥と別れて、B組の教室へ向かった。
黒板に出席番号順に書かれた机の位置に自分たちの荷物だけおいて、すぐさま体育館へ向かった。
特筆すべき事はなく、ただ普通の入学式だった。とは云えない。私はこの入学式、最後までいなかったのだ。それに、特筆すべき事はあった。
体育館に入る少し前から、中からざわついた声が漏れていた。なんだろうと思っていると、音楽が鳴り始めて、続いて「新入生、入場!」という声がスピーカーを通して聞こえた。
気恥ずかしい思いで、鼻がむずむずしてくる。周りも、鼻の穴がひくひくしたり、頬を紅潮させたりしながらも、この時ばかりはシャキッとして、順番に体育館へ入場していく。沢山の拍手に迎えられながら私は、先程のざわつきの正体を見つけた。
保護者の胸に大輪が咲いていた。
学校側から、その日に咲いた花でコサージュを作り、それを配っていたみたいだ。振り返ると、同じものは一つもなく、服装に合わせた大きさや配分のものが、その服装をより映えるように胸元に添えられている。今日の主役は勿論生徒だが、それを育ててきた両親もまた、それを誇る服装でいるべきなのだ。
そして、それは体育館全体にもいえた。
壇上の演台の一輪挿しにそっと花がある。そして、体育館全体が花で賑わっていた。あちらにもこちらにも花があり、けれども動線を意識して邪魔にならないよう、あくまで添え物のように咲いている。そして、あまり目立たないが、何人か二階のギャラリーのところに待機していて、後ろに消化器もある。
こういうの、結婚式みたいだなぁ〜と月並なことを考えていると、式が始まった。国家斉唱、新入生点呼、紋付羽織袴の髭のたくましい校長からの挨拶──なんと、短い──からはじまり、来賓の挨拶──こちらは長かった。入学式にも、部活紹介の時のようにストップウォッチと卓上ベルによる時間管理を徹底してもらいたい──や、司会も兼ねている主任教諭から挨拶があった。
その後、在校生代表である生徒会長からの歓迎の言葉があり、なかなかウケていた。
事件はそれから起こった。私にとっては大事件だが、皆はどうだろう。
主任教諭が口を開いた。「新入生誓いの言葉。新入生代表、倉多修弥」「はい!」
心臓が止まるかと思った。
(あのしゅうちゃんが代表!!)
スマートに立ち上がった修弥は、壇上に続く階段の前で来賓席に会釈、教員席にこれまた会釈。ゆっくりと階段を登って、演台に立った。そして、ハキハキと言葉を紡ぎ始めた。
私は修弥を見ていたが、声は聴こえていなかった。頭からプシュ〜っと蒸気が吹き出し、目がぐるぐるとなって、そのまま床に倒れてしまった。視界のすみで、慌てた代表生の顔が映った。