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花束を持って、君と  作者: 雲雀ヶ丘高校文芸部
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プロローグ

 どんなに時代が移り変わっても、学校という狭い社会において偉大なる先輩方が築き上げた武勇伝は語り草になって後世まで残るだろう。

 朝にかわす挨拶の中で──部活の休憩中で──学園に伝わる七不思議の中で。炭の中で(くすぶ)っていた火種が息を吹きかけて勢いを取り戻すように、あちらで消えた灯火(ともしび)も、そちらで再燃する。やがて(うわさ)の火は燃え広がって全体にいき渡り、その火が消えた後も煙となって長い間漂い続けるのだ。






 「──さて、この位かな」

 ここは生徒会室。机の上にファイルがいくつか積まれ、その横の私物ボックスには先程までの掃除であらゆる物が放り込まれていた。

 声を出した人物とその隣にいる人物に向かって、二つの影が声をかけた。

「会長、副会長、今までありがとうございました」

「お疲れ様でした」

「ええ、お疲れ様です」

「うん、お疲れ。例年ならこのまま新百合(しんゆり)辺りのカフェで打ち上げをやるんだけど、去年はこの生徒会室を使用したからね。今年もやるよ。ほら、使用許可も貰ってきた」

 会長と呼ばれた赤い髪をした女性が今朝頂いてきた許可証を見せる。「前はこんなもの必要なかったけど、今はみんな平等。誰かさんが校則をまるっと変えちゃったからね」

「そうそう。誰かさんが」

 会長の隣にいる副会長がくすくすと笑いながら相槌(あいづち)を打つ。肩まである髪は青く垂れている。

「それって、猫先輩の事ですか?」

 白い髪をした男性がキラキラした目で二人を見る。「猫先輩は色々伝説を打ち立てた人とは聞いているんですが、なにぶん、今年は今年で忙しかったですから、全然自分の耳に入ってないんですよね」

「それ私も。あのブラスバンド部の部長さんとお付き合いされている事しか知らされてなくて。いつも一緒にいて羨ましいなぁと思ってるんです」

 一人だけ黒髪の女性は長い髪を三つ編みにして、後ろでまとめている。ロマンチックな呟きと共にため息が漏れた。

「そうか、二人は一年だったね。なら今からあの当時の話でもしよう! お菓子も飲み物も沢山あるしね、最後くらい先輩たちの昔話に付き合ってよ」

「今日のお菓子は私が朝早起きして作りました! 自信作だから沢山食べてね」

 籠いっぱいにクッキーやマドレーヌがある。パンやサンドイッチも用意されていて、四人では食べ切れない量の食べ物がそこにあった。

「やった! 副会長の手作りお菓子!」

「俺も腹減ってたんですよ。遠慮(えんりょ)なくいただきます」

 一年生の二人は急いで手を洗いに行く。会長たちもテーブルの上にパーティーの用意をセッティングをして、皿やカップが皆に行き届いたので乾杯する事にした。

「それでは第百二十六期生徒会活動終了の打ち上げを行う、乾杯!」

「「乾杯!」」

 籠の中から各々好きな物をとり、飲み物を注ぐ。

「会長、いつもそればっかですね」

「ん? これ? 中々美味しいんだよ」

 指摘された会長の皿の上には小さな食パンの上にクリームを塗った様なパンが山積みになっている。一つ掴んで顔の前で指を刺す。「私は福島出身なの。それでこいつも福島出身」

 そう云って手に持ったパンをかぶりつく。

 咀嚼(そしゃく)して牛乳でパンを流し込むと会長はにっこり笑った。

「そうそう、お話にはこのパンも登場するんだ。さて、話を聞く準備は出来た? 明日は卒業式だからさらっと終わらせるよ」

 室内を見回す会長。キラキラな瞳で話が始まるのを待つ二人と、自分の隣にいて優雅(ゆうが)に紅茶を飲む副会長を視界に入れて、それから記憶を掘り起こす為に焦点(しょうてん)をぼかして遠くを見つめる表情になる。自分で見た物。後で知らされた物。それらの情報を自分の中で再構築していって、一つの物語にする。再構築はお手の物だ。

「あれは四月──」会長は口を開く。「四月のとても桜が綺麗な時期だった。駅から学校へ行く途中の麻生川(あさおがわ)を流れる桜の花びらはとても素敵で、新たな始まりを予感させる季節に胸(おど)らせた私たちを、校内中に咲き誇る花たちが一斉に迎えてくれてね。あなたたちも覚えがあるんじゃない?」

 二人にとってそれはつい最近の出来事だった。その時の喜びがまだ身体の芯を燃やし続けている事を、二人は知っていた。その日の会長の挨拶を聞いて生徒会に入ろうと決意したのだから。

「その入学式の日。ある一人の女子生徒が体調不良で式の途中で倒れちゃったの。みんな慌ててね。その時はまだ誰もその子の事を知らなかったけど、まさかその子がそれから日本中の大学から推薦を貰えるなんて思いもしなかった」

 ここで三人の反応を伺う会長。云わずともそれが誰なのか分かるだろう。後輩の二人はこれから始まる一人のシンデレラストーリーに心浮き立っているのだろう。表情からそれが伝わってくる。

 横にいる副会長はとても懐かしそうな顔で話に耳を傾けていた。

 三人の反応が良いのでそのまま話を続ける。

「そんな事があって保健室で休んでいたその子に、様子を見にきた幼馴染みの男の子がある悪戯(いたずら)をしたの。男の子がした悪戯は当時誰にも理解されない類の物で、あの時点で何故男の子が全てを理解していたのか、一体何故あの様な悪戯が出来たのか今でもわからないや。

 けれど、彼は彼女に約束した。


 ──全てを自分に任せろ……ってね。


 ──彼女が楽しい学園生活を送れる様、素晴らしい計画を立てたからって。


 その約束自体が悪戯だった。実際彼は彼女の為に何もしなかった。けれど、それを信じた彼女は、そのまま何もせず週明けまで休み続けたの。彼を信じた結果、彼女は──、


 部活に入部出来なくなり、猫になった。


 そう、十二支ではない、例外の猫にね」

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