なし
プロローグ
「う、うう。…ク。ラク。に、にげ…ろ」
かすかに父の声が聞こえ。目を覚ます。
「うーん、まだ誰かいるのか?」
ドスの効いた男の声。こちらに足音がゆっくり近づいてくる。
ドスン。ドスン。スーっと静かな音をたて襖が開くとそこには大男が立ってこちらを見おろしていた。
「生まれた家が悪かったな。ま、来世はいいとこに生まれることを期待しとけ」
男の右手にはキラキラしたものがみえる。ナイフだ。
あまりに突然の出来事に声を失い、呼吸は乱れ始める。
男が近づいてくる。
「なんとか、なんとかしないと。殺される。」
少年は近くにあったハサミを握りしめた。
「ほお、それで俺と戦おうってか?無理無理。こっちもプロなんだ。お前の未来は死だ」
「う、うわあああああ」
少年は声を振り絞り立ち上がる。そして、ハサミを男めがけて投げた。
油断していた男は反応が遅れ、ハサミは目に突き刺さる。
「ぐ、ぐぉぉぉぉぉぉぉぉ」
男の膝が崩れる。すかさず、そのハサミめがけて、膝を入れた。
「がっ」
ハサミは男の脳に達し。そして男は沈黙した。
「ハ、ハァ、ハァ、ハ、ハァ」
訳のわからないリズムの呼吸が止まらない。
それでも少年は襖の向こうに向かう。
そこには、血まみれの父と母がいた。
父だけかろうじて息があった。
「ブラク。に、逃げ…るんだ。誰にも見つから…ない所へ。」
そして役目を終えたかのように父は息を引き取った。
何も考えられない時間が流れる。その時、声が。聞こえた。
「おい、そこのお前、早く。ここから出してくれ」
効いたこともない声が男のいたところからきこえてくる。
ブラクは勇気を振り絞り、男の元に向かう。
「ここだ!ここだってんだよ!さっさと抜きやがれ」
なんとハサミから声が聞こえてくる。
「わ、わかった。」
血の生温かい温度が指につたわる。
グチュ、グチャ、ヌチャ。ハサミ男の眼球から抜ける。
「はぁ。サンキューな。えーと。」
「ブ、ブラク」
「ブラクか。俺は、ザシュー。もともと魂がハサミにあったんだが
ほぼ全身に血を浴びたお陰で声と意識が操作できるようになった。ありがとよ」
「そ、そうなんだ。でもなんでハサミに魂があるの?」
「それはだな。物には全て魂が宿ってんだよ。常識だろ?」
「そ、そうなのか。」
動揺するブラク。
「おい、ブラク。油断すんじゃねぇよ。俺を持て。まだあいつ生きてるぞ。」
「お、おおおおおおおお。何すんじゃ。このクソガキが」
「はあ。おい。ちょっと意識貸せ。」
「え。それはどういう・・・」
「ハッ、ハァ、ハア、ハァ。何が起こったんだ。俺は何をして…」
見るも無残な「肉塊」があった。