表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

『サイレンに埋もれる』

作者: 全州明

 吐き気がした。路地裏にうずだかく積んだゴミ袋の山から、黒髪の女が、顔の右半分だけを出して、こちらをぼんやりと見返してくる。首から下はほとんど埋まっていて、黒いビニールの隙間から、裸の肢体が見え隠れしていた。

 空には分厚い雲がのしかかって、色飛びした白い街明かりだけが、女の横顔に影を落としている。

 むき出しになった腰の奥から、尻の輪郭がわずかにのぞく。ずっと眺めていたくなる。

 裸体は、降り積もる雪に埋もれるのだろう。見上げると、明滅する街灯に混じって、雪が降り始めていた。

 手袋越しで、寒くもない手が震える。一向に、立ち去る気になれなかった。

 生暖かい泥のような感触が、舌に染みついて離れない。曲線を撫で上げ、ついばんだ指先が、余韻に震えていた。赤くかじかんだ耳さえ、つんざくような甲高い声を、耳鳴りのように残している。

 路地裏を抜けたすぐ先では、あたり前のように商店がひしめき、当然のように人が歩いている。一度、雑踏の中に埋もれることができれば、捕まることはないかもしれない。どこか遠い、見知らぬ街で、見知らぬ自分を演じることも、あるいは、できるかもしれない。

 けれども、そうしようとは思えない。

 女の元へ早足で駆け戻ると、手袋を投げ出し、無防備にさらされたその輪郭を指先で撫で上げる。快感が、寒気のように背筋を抜けた。

 ゴミ袋をどけると、手形の痣がついた乳房がこぼれる。迷わず鷲掴み、欲望のままに揉みしだいた。いつしか冬の寒さも忘れて、半裸になり、全身で味わう。

 浅い息に、喘ぎ声が混じる。唇を貪ると、ほのかな吐息が口内を満たす。

 股下に手をかけ、指をねじ込む。差し入れた人差し指だけが、ぬるま湯の中で溶けていった。

 薄い息に、絶頂が迫る直前。白黒の路地裏を、赤いランプが照らし出す。

 今更のように、サイレンがうるさい。

 ふと、目を落とすと、女が、まばたきを忘れたまま凍りついている。

 それ以上、女が喘ぐことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ