第1話 キープ・ユアセルフ・アライブ 【ようこそ、エテルニーテへ】
*誤字脱字あれば気兼ねなく指摘ください。(報告受けてすぐさま修正します)
名物はファンドッソ。
一般名称で言うとチョコのスコーン。
地元名産の小麦粉、卵、牛乳と祖国特有のトッピングに少しほろ苦いチョコさえあれば簡単に作られる知らぬ人はいない地元名物のお菓子。サクサクしているもの、ふわふわしているもの地方それぞれによって製法が違うためにそれを楽しむ目的で『祖国』に旅行に来ている人は少なくないのだそう。
飛行機の中で暇を持て余している私は自分の国のガイドブックに目を通していた。最近は観光に力を取り入れているらしく、世界遺産にも三年で六ヶ所も登録された。
日本からトルコへ乗り継ぎ、計半日以上かけて帰ってきたこの場所。雲をつきぬけて窓から街の景色が見えてきた
ようこそ《永世の連邦》へ。
地球の位置で言うならばトルコの近くに位置する。ヨーロッパかアジアかと言われたら国際条約上では《ヨーロッパ》の扱いになる。
(覚えてもらうか貰わないかはまかせるのだが………)私の名前は『ミヤビ・ヤノ』と言う。名前からわかる通り遠い東洋の国、《ニホン》から生まれてきた。父親がニホン人で母親がエテルニーテ人のハーフ。とは言ってもこの国の四割はアジア人の移民なので私のような名前の方が多かったりするのだけれど……………。ちなみに男っぽい名前と言われるが、『女』だ。私は男として呼ばれることがとにかく嫌いなのでもう一度言う。
私は『女だ』。
国の面積は12の県が揃ってエジプトとほぼ同じくらいの103万平米、人口は日本より少ない9000万人ちょいぐらい。
県の紹介も少ししておこう。
北東部に位置する3番目の県は《カナール県》。鴨の養成が盛んだ。
対して南に位置する11番目の県は《メール県》。メールはメールでもMailではなく、地元の方言で《海》を示している。その名の通り、熱帯のバカンスを楽しめる。
そして、まもなく着陸するのは港町にして我が国の首都、《ポール県》。
毎日20隻以上の船が来訪する。客船やタンカー、確かこの前は液化天然ガスを運ぶLNG船も来ていたと聞く。地方のみならず国の運輸を支えている。海洋国であるために99.6%は船舶の輸出入によって生活はまかなえている。その事から通称『エテルニーテの命綱』と呼ばれている。
(私は正直この例えは侮辱しているようで気に入らないのだけども)
しかし、最近は海上運輸の他にある産業が顕著に突出し始めている。
皆さんは多分聞いたことないであろう………
《永世未来化計画》
大きく前に遡って2016年。
『ポールを未来都市にいざ、NOW!!(誘う)』
をキャッチコピーに本国とニホンとの合同プロジェクトで、新たな燃料がこの国に埋まっている可能性があると判明し、二国の労働者総員425名が六年間休む間なく掘り続けた。最初はエテルニーテの戯言だろうと関心向ける人はいなかった。
しかし、2022年、石油や天然ガスでもない新しいガスが発掘され、その効果はとてつもなく世界中の科学者を驚かせることになる。
何より大きい《ガス》の特徴は
《硫黄分がない燃料物質》だ。
それは世界が理想とする最高な物質だ。
海洋のみならず硫黄が原因で酸性雨も発生し、あらゆる場所で被害を及ぼす物質の《硫黄》。今回見つけた《ガス》の硫黄分はなんと0.0003%しかないことが判明。
保存も容易で今後この《ガス》の発掘が進み、主流になるだろう。
その経済効果は1065兆9200億円。
今まで観光地でしか取り柄のないこの国が一気に先進国に成り上がるのだった。
そして《ポール県》を中心に周辺の都市の《未来化》が進み、昔は《香港の夜景》とされていた時のように《ポールの夜景》は世界五大夜景と言われている。(三大から五大に増えたことに対しても気に入らない)
そして今、船が主流だったこの国が、10年前まで来ることは無かった『飛行機』が《ポール国際空港》に着陸する。
《未来の町、ポール県》へようこそ。
『街』というにはまだ遠い《理由》がある。
「ご搭乗ありがとうございました」
「良い旅をお過ごしください」
ウェルカムボードには
《未来と海の街 ポール県》と書かれている。
「変わったなあ……この街も」
私が来訪したのは11年前の秋のこと。
家族旅行で《ポール県》へ来たのだがこんな国際空港すらなかったし、言ってしまえば『首都であるにも関わらず』一番古臭い町だったというのに……………。
空港から出ると空に仰がれているのは《永世の国旗》、《ポール県旗》と
《エテルニーテ国際空港のロゴが入った旗》の三つだ。永世の国旗は自分の尾を噛む『ウロボロス』を真ん中に赤と黒の二色が真ん中を境に上と下に分かれている。赤と黒の意味は『月と太陽』を示すとどこかの書物で読んだことがある。常に動き続ける太陽と月とウロボロスはまさに『永世』の象徴とも言えよう。1990年までは労働の象徴であった《鎌と槌》もあったが、ソビエトが存在したため資本主義社会において社会主義を連想させることを理由に、国民投票によって撤回された。
私は先月まで、学生だった身だが、今月からエテルニーテの軍に入隊するためにニホンからわざわざ飛行機で飛んでここまで来たというわけだ。しかし、約束の時間まで数日あるのでしばらくは余裕がある。カフェで少し休んでホテルに向かおう………と思ったのだが、前方から黒スーツの男が私に向かって歩いてきた。私は彼のことを知っている。あえて避けずに立ちどまり、そして彼は『わざとぶつかって』黒スーツは立ち去って行った。あるA4サイズの茶封筒を私に押し付けながら彼はどこかへ去っていった……………。彼は軍が秘密に雇っている『伝達班』と呼ばれる存在であり、主に上層部からの伝達が目的だ。そしてその封筒が来るということは、仕事は『入国した時』から始まっていたことを意味するのだった。
「ご注文はいかがでしょうか?」
「ファンドッソと地元のコーヒーを一つ」
「かしこまりました」
私はため息吐きながらカフェのテーブル席で茶封筒を開いた。その中には手紙と写真二枚が入っていた。まず一つ目の手紙はアルバート大佐という男からの手紙だ。軍の徴兵制度で養成所に行った時にはこっ酷く罵倒されて殴られての日常だった。その恨みは忘れねえぞコノヤロー。その手紙を読むとどうやらこの後二人の男女が来るらしいとのこと。
『ミヤビ・ヤノへ
留学先のトーキョーユニバーシティー卒業おめでとう。祖国に帰ってきてリフレッシュしたいと思っているところだろうが閣下からの直々命令があったので今をもって伝達させてもらう。
今日の十二時にポール国際空港に到着すると連絡があったと聞いた。なので十四時に二人の《新米》を国際空港前に集合させるよう伝達した。プロフィールについては写真の裏に記載してある。二人とも『癖』が強いから気をつけたまえ。『上司』として初めての仕事にはなるが存分に我が軍のために働いてくれ』
確かに写真の裏には名前と住所のほか事細かく記載されている。そして手紙の裏に追伸があった。
『P.S.君が養成所にいた時、学力試験で総合点五科目にして135点だったことに対して殴ったことを覚えているだろうか。実は君が日本へ行ったあと採点し直したのだが《一教科》カウントしていなかったことがわかった。改めて総計して君の点数は……………』
『140点だ。お前が養成所最低記録出したことは変わらなかったな。残念だ。 アルバート・ソニーより』
………………………………………。
ふざけんなぁああぁあああ!!!
と、昔の私なら叫んでいた場面だが《サドー》と《ザゼン》を学んだ私には無意味なのだよ。心を落ち着かせる術を私は知っている。
私はそれを勢いよくビリビリ破りゴミ箱に突っ込んだ。怒っていない。
怒っていない。
読了ありがとうございましたッ!
評価・感想お願いします。