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01話 キラキラネーム

小説投稿ってどきどきしますね

ここがゲームの世界だと気がついたのは生まれて間もないときだった。ラノベの定番な熱病に浮かされて〜とか転んで〜とかではなく、ごくごく普通。涙がぼろぼろと零れ落ちる美女に「あなたは今日から、イシュタル・ライラ・ルースよ…」と言われたからである。



イシュタル・ライラ・ルース。ゲームだから許される名前のキラキラネーム。全国の乙女が熱狂した恋愛ゲームの…大人気キャラクター。

ただし、主人公でも、攻略キャラでもない。寧ろ主人公のライバルポジションといってもいいだろう。けれど、ここで勘違いしてはいけないのは、彼女は決して悪女ではないということだ。



そもそも、問題の乙女ゲーム『壊れゆく世界で君だけを想ふ』(ちなみに言わずもがな学園ものだ)が売れに売れた要因の最たるものは彼女の存在にあった。ありそうで今までになかったストーリー。



何が新しいって、主人公のライバルが完ッッ璧な王女なのだ。

よく見る悪役のする、いじめ、差別、噂のでっちあげなんてとんでもない。寧ろ作中で彼女は平民で生活に慣れない主人公に尽力するし、いじめについては「犯罪です」とまで言っていた。



文武両道才色兼備な王女様。これを主人公が相手にするのか?といったら、彼女を敵に回すのは1ルートのみ。



…婚約者であるルイス・ハーストに、主人公が手を出したときのみである。

主人公の方が悪いんじゃない?と思ったあなた。いぐざくとりー!!!





敵に回す、といっても上述の通り嫌がらせなどはなく、婚約破棄を打診されたときだって「人の心は移りゆくものよ、気にしないで」と儚げに笑うだけ。



そうして、イシュタルの主人公に対する好感度が一定以上で…彼女は静かに海へと身投げするのだ。




一連の事件が自分のせいだと気を病んだルイスは後追いをしそうになるも主人公の存在に支えられ…何事もなかったかのように幸せに結婚してルイスルートは終わる。これを初めて見た衝撃は忘れられない。

「私の王女さまが平民に自殺に追いやられた…バッドエンド周回してやる…!」など、ネットの掲示板も荒れに荒れたほど。


それもそのはず、他のキャラを攻略する上で欠かせない情報やアドバイスを、身分の差も気にせずにこやかに教えてくれる王女が自殺するのだ。いややっぱり辛すぎない?




これでも、驚くのはまだ早い。実はこのゲーム、王女、めちゃめちゃ死ぬ。病気、事故、戦争…バッドエンド以外ほぼ死ぬ。


なかでも、『こわきみ』には全員を侍らす所謂“逆ハーレムルート”というものがある。

このルート、優しい王女はいろいろやらかした主人公を逃がすために兵を動かし、反逆罪で処刑されます。王女が、主人公のせいで殺されます(2度目)ちょっとわけがわからないよねわかる。


グッズやら人気投票やらは全て王女がかっさらい、何故王女ルートがないのかと皆が嘆く。王女とくっつけたいがためにバッドエンドばかり選ぶプレイヤーも多かった。私も、そのひとり。






かくして私は推しに転生すると同時に、悲しきかな死亡フラグの乱立する人生を歩まなければならなくなってしまった。


…それも、攻略キャラクターが誰か1人でも主人公に惚れたら即終了、という超鬼畜システムの。







ーーそろそろ、このゲームの細かなストーリーや攻略キャラクターをあげていこうと思う。



3大王国のなかで最も大きく権力のあるハーゲンナイツ国でお話は展開する。制御の難しい魔法をもつものと、一部の上流貴族しか高等学校に通うことが許されていない世界。


田舎から、とある商人の一家が行商をしに街を移動していたときのこと。なんと魔物出現の緊急警報が鳴り響き、近くの国民は王都に避難するようにとの指示が出たのだ。しかし、ここで慌てる家族じゃなかった。普段は入れない王都だ、せっかくなら商品を売りさばこうじゃないか、と図太い神経で思いつく。商売許可証も発行して全てが順調。そう、全て順調だった。その時までは。モノを広げてさあ売ろう!というとき…なんとその商品がいきなり燃え出したのである。なんだ、どういうことだと慌てる家族に、駆けつけた衛兵が優しく諭す。「もしかしたら、娘さんが魔法に目覚めたのやもしれません。一度我が王都の教師にみせてみるべきですね。」



こうして、とある平民の女の子は学校に通うことになった。彼女がこのお話の主人公、デフォルト名もない名無しちゃんである。この後、学園にて主人公は初めて差別というものにあう。虐め通される毎日だったが、その中で主人公の家柄を聞いても全く気にしない、作り物のように美しく、気品溢れた同級生がいた。名を、イシュタル。常に5人の騎士に囲まれており、学校側もそれを容認している権力者。平民である主人公は彼女がどんな存在なのか知らなかった。



…そんな2年生の春、主人公は恋をする。



これが大体のあらすじだ。ツッコミどころ満載なのはわかる。わかるが、どうかまだこらえて欲しい。



攻略対象は、まずイシュタルの兄、レイヴァン・ルーカス・ルース。


ハーゲンナイツの次期国王で、怜悧かつ冷たい雰囲気を持つ人。髪の毛は白く輝き、目はまるでダイヤのように七色に輝く。剣の腕・頭脳戦に極めて長けており、右に出るものはいない。主人公との恋は、主人公が街中で彼に一目惚れすることから始まる。世にいう格差婚ストーリー。妹を溺愛しており彼女に危害を加えるものには容赦しない。ちなみにこれのメリバでイシュタルは死ぬ。



次に、メリル・ローレンス。


こちらもレイヴァンには劣るものの格差婚ストーリーだ。公爵家の子息、メリルは優秀な兄に対して強い劣等感を抱いていた。誰も俺自身を見てくれない。そんな中、学園の中庭で主人公が花に水をやっているところに出くわす。なんだかんだあって個を認めてくれた主人公に恋を…けれど周りは認めてくれず…うんぬんかんぬん。イシュタル?ああ、メリバで倒れてハピエンで消息不明になるよ。



3人目、ニコラス・バートン。


パン屋の息子と平民同士の仲睦まじい恋愛。男前な性格のニコラスが印象的。決して容姿が抜群にいいわけではないけれど、とても深い愛を実感できるルートだ。え、イシュタル?ハピエンで病気になって2人のダシに使われます。



4人目は先ほどもあげた、ルイス・ハースト。


最も大きな公爵家の次期当主であり、イシュタルの婚約者。

攻略難易度激高。そりゃあ、相手はあの王女さまだ、完璧な彼女が婚約者なんだから靡くものも…まあ靡くんですけど。ストーリーとしては、ルイスの家は複雑な環境だった。病気な母を蔑ろに仕事にばかり励む父。とうとう彼のお母様が死んだ時も姿を見せなかった父を彼は見限る。だからこそ、ルイスは嫌いな父の家を発展させる“王家との婚約”に乗り気でなかった。そこに手を差し伸べたのが主人公で、自らの生い立ちに、慰めるでもなくただ抱きしめた彼女にルイスは惚れる。紆余曲折ののちに彼らは婚約した、という流れだ。ちなみに前述したとおり婚約破棄されたイシュタルはメリバで自殺、ハピエンで精神病だ。勿論彼女の兄がこれを許すはずはなくルイスと主人公は国外で暮らすことになる。



次いで王宮の騎士団長、ウィリアム・シューベルト。


黒くてサラサラな髪に紫の瞳。騎士然とした態度のめちゃめちゃなイケメン。攻略キャラの中ではダントツに彼が人気だったように思える。銀の鎧を身に纏い、王宮にあだなす魔物を一刀する。ちなみに全ルートで唯一魔物が出てくるルートだ。とある事情から王宮の外へどうしても行かなければならなくなった主人公に、イシュタルが送った騎士が彼だった。主人公を護りながら突き進むうちに、次第に2人の中には恋が芽生え…というストーリーだ。イシュタルは病気になる。治療法のわからない死んじゃうやつね!!!!



最後、隠しキャラ。オスカー・ブラック。


女たらしな魔法使いで、攻略度80パーセントが解放条件な通称ラスボス。なぜラスボスか。ヒントは攻略難易度。ルイスの比でないといっても良いくらい難しいのだ。どこまで進んでいようがひとつでも選択肢を間違えるとバッドエンドに直行。バンバン死ぬし、バンバン殺される。

それもそのはず、彼は「ごめんね、実はオレ、君のこと騙してたんだよねぇ。」隣国からのスパイだ。

幼い頃ハーゲンナイツのとある一家に拾われた彼はまるで奴隷のように扱われて育つ。ご飯をもらえない日もあった。それでも自分は頑張って両親の要望を聞いたのに…隣国に売られた。高笑いが頭に反響する。絶対に許さない、ハーゲンナイツ。そんな人。ちなみにこのルートは恐ろしい。ハッピートゥルー両方に待ち受けるのが死、バッドエンドで父が殺される。絶対に阻止しなければならないのがこれ。




…お分りいただけただろうか。


王女は、ほぼ死ぬ。


ほぼ死ぬし、主人公が鈍感通り越してアホ。おま、王族の血を濃く受け継いだイシュタルの、名前だけでなく綺麗な白い髪と七色に輝く眼を見ても気がつかないって…(苦笑)



逆ハールートは上述したとおりだし、とにかくイシュタルは死にやすい。生き延びるには主人公には申し訳ないけれど、攻略対象を全員。そう、残らず全員私、イシュタルに惚れさせなければならない。なんっって攻略難易度だ。オスカーにいたっては彼の幼少期の原因を取り除かなければ確実に私と父が殺されるし。





とにかく私は今生を頑張って生き延びることにした。推しを…死なせてはならない…!そう、誓ったのだ。




そして今。あの決意から6年が経ち、私は6歳になった。



「お兄さま」



拝啓前世のお父さん、お母さんへ。



「なんだい?」



私、



「私、お兄さまのこと大好き!」


「っ、僕もだよ、イシュタル。」




超頑張ってます。


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