六話・住処
今回、4000字近くの少しだけ長めの話になります。
「それで………貴女、何のつもり?」
リオネは、魔力を練りながらそう言い放つ。
「ちょっと…!リオネちゃん!ここに住んでる人かもしれないんだから………!」
「クユリは黙ってなさい。私は───この女に聞いてるの」
リオネの睨む先には、剣を構えた銀髪の少女が一人。ポニーテールを揺らしながら、静かに一歩ずつ、リオネとクユリに歩み寄る。
「お前らこそ………!『ここ』で何していやがる!!!」
「ま、まってください!あたし達、寝床を探してて、その───」
「うるせぇ!それは『ここ』じゃないといけねぇのか!?」
「はぁ………そろそろ、静かにして貰える?邪魔よ」
「いい加減に………しろぉ!!!!!」
我慢の限界がきたのだろう。銀髪の少女は、地面を思い切り蹴り出し、リオネに突撃していく。
(もう………!あたし達、何でこんな事態になってるの………!?)
───それは、リオネとクユリが魚を手に入れ、住居を探し始めた時のことだった。
〜〜〜
「クユリ………一応参考までに、今まで寝泊まりする時はどういった場所だったか覚えてる?」
「覚えてるよ!地上なら即席で家建てちゃうこともできるけど………洞窟の中だったらやっぱり、入り口が狭くて行き止まりの、部屋みたいになってるところがいいかなぁ」
「なるほど………入り口を何かで塞いでしまえば安全を確保できる、と」
「まぁ、あたしは幸運だから入り口塞ぎまではしなかったけどねー♪」
「………私なら多分、喰われてるわね」
二人は寝床について話しながら、グローラのいた部屋を出て洞窟内を歩き回る。
しかし、ある瞬間───確かにコツ、コツと鳴っていた靴音が、急に小さくなる。二人は、床が柔らかい土になっている通路に突入していた。
それと関係があるのかどうか、進めば進むほど湿気も増してくる。
「うぅ………なんかこの辺蒸し暑いね、リオネちゃん………」
「確かに、そもそもこの暑さじゃ休むのもままならない………引き返して違う通路を探すわよ」
「わかった───きゃぁぁっ!!!」
「クユリ、どうし───ひゃっ」
刹那、足をとられたような感覚に陥るも、すぐにそれは間違いだと気付かされる。
床が、崩れたのだ。あまり大きな音がたたず、本当に身体が沈んだと錯覚しておかしくない程、静かに。
リオネとクユリは、周囲の状況もわからないまま、どこかへ転がり落ちる。
「いっ───うぅっ!?───っ!!!」
「り、リオネちゃん大丈夫!?───っと。ほっ!」
やはり運動能力の差だろうか、クユリは所々で受け身を取って衝撃を軽減しているのに対し、リオネは身体中を土の塊や石に叩き付けられてしまう。
「うっ─────」
「し、しっかりして!!!」
「───っ!!!ひ………回復!!!回復!!!………今!守護!!!」
一瞬だけ失神しつつも、クユリの声で目を覚ましたリオネは、死に至るまでに体制を立て直し、その時からは魔法で身を守ることができた。
そして───防御結界が地面に叩きつけられ、激しい音が響いた瞬間。
「ぐ……………っ!!!」
「り、リオネちゃーーーん!!!!!」
「ちょっ………クユリ、落ち着きなさい!」
クユリは一瞬のうちに、リオネに抱きついてきた。
「大丈夫!?ごめん!あたしの不注意だね…っ!」
「大丈夫よ………でも、危なかったわ。一瞬、完全に意識を喪ってた………」
回復で傷は治療したものの、痛かった感覚はしっかりと覚えていた。リオネは、強打した回数が最も多かった膝に手を当て、顔をしかめる。
「それはさておき………とりあえず、状況はどうなって───!」
「?リオネちゃん………?」
周囲を見渡したリオネは、気付いた。床が崩れ落ちた先のその空間───そこが、あまりに住処に適していたということに。
「………良いじゃない、ここ。静かで、湿気も少なくて、小さめの部屋………」
転落した時に散らばった瓦礫を手で除けると、しっかりと踏み固められ、整地されているのがわかる。
「誰か住んでるのかなぁ………?ここ、元々はただの穴だった所を人の手によって綺麗にされたように見えるけど………」
クユリがそう言うと、リオネは壁にもたれ、座り込む。
「とりあえず、私は少し休むことにするわ。住むかどうかはさておき、休憩には十分な場所でしょう?」
「………うん、そうだね!私も休もうかな?というわけで、お隣失礼〜♪」
クユリは、滑り込むように素早くリオネに密着して座り、リオネの肩に寄りかかろうとする。しかし、リオネはクユリの頬を片手で押し返す。
「むにゅっ?」
「………誰がそこまでしていいと言ったの」
「何で拒むのー!グローラの攻撃から庇ってくれた時は、あんなに情熱的に抱きしめてくれたのにー!」
「わかったわ、もう何があっても絶対に、貴女を庇うような真似はしないから安心して」
「ご、ごめんなさいっ!?ちょっとだけ離れるから!許して!ね!」
「……………まったく」
どこまでも鬱陶しく、どこまでも騒がしい。リオネにとって、クユリはそういう存在だ。それなのに、不思議と思ってしまう。その鬱陶しさが消えれば、自分は何かを見失ってしまうのではないか、と。
そして───
「………はぁ……………」
───もし、それすらもクユリの幸運の範疇なのかもしれないと考えると、クユリについて考えることそのものに意味が無いように思えてくるのだ。
その後はあまり言葉を交わさず、リオネは辺りを見渡して状況を確認し、クユリはぼーっと天井を見上げながら、時々リオネの様子をうかがう。
しかし、ある物を見つけたリオネは、部屋の隅を指さす。
「………?クユリ、あれを見て」
クユリは、リオネの指さす先を見る。するとそこには、ちょうど人が一人寝転がったくらいの大きさの、綺麗に磨かれた直方体の石があった。そして、それには何か文字が書いてあるように見える。
「んー………?何だろう?」
クユリは、その文字を読もうとして、石に駆け寄ろうとした。
「───クユリ、待ちなさい!!!」
リオネは、クユリの服を掴み、元いた場所にクユリを投げる。
「いっ………ど、どうしたの!?」
リオネは、クユリの代わりに石に向かって歩いていく。と思いきやあるタイミングで唐突に、上を見上げた。
───リオネとクユリが落ちてきた穴だ。
「………警告する。そこに居るのはわかってる。私が十秒数えるうちに、透明化魔法を解除して降りてきなさい」
「リオネ………ちゃん………?」
「十、九、八、七、六、五───」
クユリは、リオネが見えているらしいものが何なのか、さっぱりわからなかった。しかし、クユリの困惑を全く気にせずにリオネはカウントダウンを続ける。
「四、三、二、一───火炎霧!」
穴に向けて、皮膚が爛れるほど高温の霧を放つ上級魔法、火炎霧を放つ。
「───ッ!!!ぅああああああああああ!!!!!回復!回復!回………ぁ……………あああああッ!!!!!」
「だ、誰!?!?」
クユリは、ここにきて初めてリオネの行動の意味を理解した。駆け寄って穴を見上げると、赤い霧で埋められた隙間に、透明な人型の部分が存在する。
そして、それは少しずつ姿を見せ始める。───皮膚がところどころ、真っ黒になっていた。
「ぅ………り、リオネちゃん!流石に、やりすぎだよ………!?」
「何故?私達の様子を盗み見て、警告しても降りて来ないなんて………どう考えても敵でしょう」
どさりと音をたてて落ちてきた、人型の何か。そのあまりに酷い姿に、言葉も見つからないクユリ。
「ぅ………ッ!魔蓄積!回復!!!」
薄れゆく意識の中、魔力を増幅させ、より強力な回復魔法を使う。みるみるうちに、爛れていた箇所は色を薄めていき、焦げた服は色を取り戻す。
「……………しぶといわね。放───」
「もうやめて!!!!!」
「いたっ……………!クユリ………何故止めるの」
放電で追撃を試みるリオネの腕を、本気で固めて拘束するクユリ。リオネは、相手に力技を許してしまえば抵抗する術が無かった。
しばらく回復を続け、人型だった何かは変身するかのように、銀髪の少女となる。ポニーテールを揺らし、凛とした表情に強い怒りを込めている。
完全に回復してようやく、クユリはリオネを解放した。
「それで………貴女、何のつもり?」
リオネもまた、怒りを込めた声で少女を威嚇する。手先からは、魔力が可視化されて漏れ出している。
「ちょっと…!リオネちゃん!ここに住んでる人かもしれないんだから………!」
「クユリは黙ってなさい。私は───この女に聞いてるの」
少女は静かに剣を抜き、質問に対して質問を返す。
「お前らこそ………!『ここ』で何していやがる!!!」
「ま、まってください!あたし達、寝床を探してて、その───」
クユリは必死に和解を試みるが、少女は決して応じない。
「うるせぇ!それは『ここ』じゃないといけねぇのか!?」
「はぁ………そろそろ、静かにして貰える?邪魔よ」
「いい加減に………しろぉ!!!!!」
煽るリオネに対して少女は、限界と言わんばかりに剣を構え、リオネに突撃した。
そして───叫ぶ。洞窟中に響き渡るほど、大声で。
「『ダチの墓』で、ふざけてんじゃねぇぇぇーーー!!!!!」
少し時間を空けてしまいすみません。作曲ばかりしていました。
発覚した衝撃の事実。リオネとクユリはどうなってしまうのか───?
今後も目を通していただければ幸いです。