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三話・洞窟

「………良いとは言ったものの、本当についてくるとは思わなかったわ、クユリ………」


 そう言いながらリオネは、薄暗い洞窟の中を歩く。こつ、こつと靴音が響き、その残響を聴くと道がまだまだ続いていることがわかる。


「えっへへー♪あたしが居ないと洞窟が崩れちゃうかもしれないよー?」

「……………」


 リオネは、何も言い返さなかった。いや、言い返せなかったのだ。事実、クユリが居なければそれは本当に起こりうることなのだから。


「わかったらそのそっけないのやめてよー!もうちょっと構ってー!」

「うるさい………洞窟は音がよく響くんだから、もう少し静かにしなさい」

「えぇー………」


 うだりながらクユリは、リオネに後から抱きつく。抱きつきながら、揺らしたり、寄り掛かったり、とにかくしつこくまとわりつく。


「ちょ………歩きづらい……………」

「えぇーーー?」


「引っ張らないで、危ない………」

「えーぇーーーーー?」


「た、倒れ─────」

「えええええ〜〜〜〜〜?」


「いい加減に………しなさいっ!」

「ぐふっ!」


 あまりに身動きの邪魔だったクユリの腹部に、リオネは魔力を込めた肘を叩き込む。


「もう………わかったから。話し相手くらいにはなってあげるから、本当にもう少し大人しくしてて。お願い」

「そ、そんな本気の眼で邪魔者扱いしなくても………うん、ほんとにごめん」

「わかってもらえたら嬉しいわ………治療ヒール!」


 リオネは、治療ヒール───回復魔法をクユリに浴びせる。魔力を込めた技を人間にぶつけたのだから、回復魔法くらいはかけておかないと、後遺症が遺る可能性がある。逆に言えば、リオネの身体能力だと魔力無しでの戦闘能力は皆無に等しいのだが。


「ありがとー………ところで、リオネちゃん?」

「何?」

「何で、この洞窟に来たの?よりによって、一番危険が多そうなところに………食料探すなら、もっといい場所もあるのに」

「……………今のうちに行っておこうと思ったの」


 クユリの言うとおり、洞窟は特に不運による事故が起こりやすい。


「貴女と行動する期間はそんなに長くないだろうし、今のうちに洞窟でしか得られない物を………と思って」


 あえて、クユリが傷つくであろう言葉を選ぶ。しかし、クユリはそれに、にやにやしながら返事をする。


「んー?あたしはリオネちゃんから離れてあげるなんて一言も言ってないんだけどな〜?」


「…………………………何言ってるの」


 そう言いながらも、どこか嬉しさを隠せないリオネ。生まれて間もないリオネにとって、クユリはたった一人の友人といえる。


「こーんな『お人形さん』みたいに可愛い娘、離れるわけないよーだ!」




「…………………………人、形」




 クユリの何気ない一言に、リオネはピクリと反応する。自分の能力が能力だから、その言葉を聞くと背筋が冷えるような感覚が奔る。

 しかし、別に悪意のある発言ではないので、リオネは無視して再び歩き出した。


「ふん〜ふん〜ふふ〜ん♪」

「…………………………」


 しばらくの時間が経ち、だんだん足音が小さくなっていくように感じた。やがて二人は、洞窟の最深部の───魔物の巣に辿り着いた。


「グルルルル───グォォォォオッ!!!!!」

「きゃぁぁぁぁぁっ!?!?」

「落ち着きなさい。そりゃあいるわよ、洞窟の最深部だし」


 待ち構えていたのは、二足歩行で長い爪と鋭い牙が特徴の魔物、グローラ。

 クユリは慌てて弓を取り出し、構える。


「───炸裂バースト!」


 一方、既に戦闘の心構えをしていたリオネは、強力な爆破魔法を放つ。

 しかし、グローラは長い爪を一振り、自身へのダメージの少ない距離で魔法を爆発させる。


「グォォッ!グルル───グァァァッ!!!」


 残留した煙でよく見えない中、グローラは地面に爪を突き刺し、瓦礫をリオネに向けて飛ばしてくる。


「リオネちゃんっ!!!」

「大丈夫。───守護ガード!!!」


 リオネは自身の周囲に防御結界を張り巡らす魔法、守護ガードを使い、瓦礫を弾き飛ばす。

 まだ煙は晴れない。お互いに相手の様子を認識できず、攻撃を躊躇し、空虚な時間が流れる。


「………!そうだ!クユリ今よ、撃って!」


 リオネは、気がついた。煙でお互いが見えなくとも、矢を当てるくらいはできる。それだけでなく、クユリの能力、幸運ラッキーがあれば───


「!!!─────えぇーーーいっ!!!」

「グァァッ!?」

「もう一度───いや、ある矢全部撃って良いわよ」

「わかった!えい!えい!えい!えぇーい!!!」

「グルッ!?!?グルルルル、グォォォォオ!!!グルァァァァァアッ!!!!!」


 クユリは、弓を連射することが特技だった。矢を引っ掛けて素早く引き絞って放す、一連の動作がリオネの目では追えない程に。


 そして───煙が晴れ、グローラの様子を確認する。


「…………………………これは、素直に凄いわね」

「…………………………あたしも、未だにコレを見ると自分の能力にちょっと引く」


 放った矢、十五本。腹に刺さる矢、一本。


 ───左眼に刺さる矢、七本。右眼に刺さる矢、四本。喉に刺さる矢、三本。言うまでもなく、グローラはピクリとも動かない。


「グローラの肉は、確か………食べれないわね。鋭い爪は何か使い道がありそうだし、剥いでおくわ」


 リオネは特に戸惑うこともなく、グローラの死骸から爪を剥がし始める。


「リオネちゃん、あたしはさっきの矢を洗ってくるね!ちょうど良いことに小さい池みたいなのがあったから」

「待ちなさい、クユリ。矢なら私が水魔法で洗ってあげるから、その池は汚さないで」

「え?なんでー?」




「言ってなかったわね。私は、グローラを倒しにここに来たわけじゃない。その池で、魚を釣りに来たの」

次回は、釣りをするようです。是非気長にお付き合いください

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