ルーツ
壮一たちは、シャトラ先導のもと、ギルドを出てエルフの森へ繰り出した。壮一は気づかなかったが、クロエが時折、背後に目を向けている。それに気づいた凛が話しかけた。
「どうしたの?」
「さっきの奴らが隠れながらついてきてる。ある意味テストみたいな物だから、彼らに見てもらわないといけないんだけど、ちょっとうざい…」
「あはは…なるほどね。ストーカーに対してウザいで済ませる人見るの初めてかも」
クロエが突然ギョッとした表情になり、凛もそれに釣られる。今度は、凛の表情を見たクロエが優しい顔をした。
「今まで、凛は大変だった。でも、もう安心して。クロエが守護る…」
「う…うん?ありがとう?」
明らかに誤解が生じている様子であった。しかし、シャトラの態度の悪さと、壮一の喧嘩っ早さにより、喧嘩を繰り返す大人2人は気づかない。凛は良くわからないが、別に悪いことでもないだろう、そう思って考えるのをやめた。
「クソエルフ!!喧嘩やめて、ちゃんと案内する、です。その耳、キラーラビットには見えない、ですが?」
「さっきまでは我慢していましたけれども、もう限界ですわ!クソエルフ?ぶち殺しますわよクソ雑種!」
雑種、人に使う言葉ではない。クソエルフももちろん、エルフに対して言っていい言葉ではないが、それは度を越していた。壮一がさらに怒りを増し、シャトラに殴りかかろうとしたその時だった。俯いて泣いているかに見えた彼女が明るい顔を上げた。
「ざ…雑種…?クソエルフ、いやシャトラ。クロエのルーツ、わかる、ですか!?」
「え…ええ?ああ、流石に申し訳ありませんでしたわ。子供相手に使っていい言葉ではありませんでしたわ…」
「そんなことより、ルーツ、わかるなら話す、です!」
「え、ええと…。その耳、たしかに人のようではありますが、決してそうではありません。エルフとドワーフの子が、人のような耳になるのですわ。ちょうど、あなたの耳のような」
クロエは納得していない様子であった。根拠に乏しいとでも言いたげだ。事実、壮一も凛も、クロエの耳に違和感などなく、人だろうと当然に思っていた程だ。
「耳の角度、私たちエルフのように、僅かにではありますけれど、人に比べると横を向いていますわ。形は人のものとさほど変わりませんけれど。加えて言えば、クロエさん。あなた、もう体は大きくなりませんわ。魔力の循環が安定していますもの。それに、その魔力の循環の形は、エルフに近い。体の成長が幼少期に止まり、エルフに近い魔力の循環…。あなたが、エルフとドワーフの間に生まれた子であることは、火を見るよりも明らかですわよ」




