凸凹コンビ登場
レイが消えた頃、神国アマテラー北沿岸近く、果ての森にて。2人の少女が連れ立って歩いていた。前を歩く冴えない可憐な乙女は疲れを露にしている。しかし、粗末なボロ切れを纏い、首、手、足に奴隷に嵌められるような枷をつけ、乙女に恭しく追従する少女の表情から、疲れといったものは見当たらない。鎖による拘束はされていないものの、枷だけでも相当に重く、負担になるはずなのだが。
「フタちゃん、神国を脱出して、このやばい森に入ってから1年くらい経ったよね。いつになったらこの森を出られると思う?」
「申し訳ありません、カオル。何度跳んでも、何故か空に出ることは出来ませんでしたから、全く検討もつきません。これはもう首を絞めてもらうことで贖うしか…」
「前無理やり私にやらせてからそればっか!ていうか
、それ、仕方ないことじゃん!贖うとか必要ないよ!それに、フタちゃん首輪とかで十分って言ったじゃん!」
「いえ、これはこれで嬉しかったのですが、やはりカオルの手で直接痛めつけられたいのです、それに、一度アレを覚えてしまっては…。カオル、ボクの後ろへ。危険な魔獣です」
主人であるらしきカオルの問いにロクな返しをしない、奴隷らしきフタちゃん。しかし、彼女は自身の使命を忘れていない。彼女の主人、カオルを守ることである。魔獣の荒い息を聞き取った彼女は、音のする方向へ踏み込んでいく。
「白雪薫、我が主人、我が愛しき伴侶よ。首枷の解錠を願う」
「やばそうってことだね、お願い。赤城二葉、我が奴隷、我が尊き伴侶。"Ⅲ式封印之楔摘出"」
奴隷の願いに主人が答えると、奴隷の首枷が光の粒子となって消えていき、今、奴隷はその力の片鱗を露わにする。
獣は獣を蹂躙し、獣に蹂躙される。そんな自然界の当たり前の掟が、崩壊していた。たった一匹の獣によって。2人の歩みを止めるものは、もはやいない。
「海に出たけど、ただの砂浜だね」
「そうですね、せめて、船の一隻や二隻、見つかれば良いのですが…ん?」
まるで、二葉の声に応えるように一隻の船が彼女らの視界に現れた。無論、2人がいる何もない砂浜に近づくはずもなく、ただ通り過ぎようとしているだけだ。
「おーい!助けてくださいー!ま、聞こえないか、フタちゃんどうしよう?えっ、お姫様抱っこ?ちょ、何する気、首枷解錠したままだから洒落に…ああああ!?」
「舌を噛みますよ、黙ってください…むちゅ…ふ…う」
「ちょ、うむん、これは、ふっ、違うでしょ!ぬう」
二葉は薫をお姫様抱っこし、理由になっていない理由を使って自分の欲望を満たしながら、船めがけて跳躍した。単に地面を蹴っただけとは思えない高さまでたどり着き、後は猛スピードで船に近づいていく。
「船長!空から 変 態 カップルが!?」
「私まで巻き込まないでください!!!???」
カオルが魔法で海水でクッションを作り出し、衝突事故により船が大破するという大惨事は免れられた。だが、フタバはともかく、カオルにとっての受難は続いていた。
「お、おう。オレは船長のトム。あんたら、果ての森から飛んできてたよな?何があったんだ?」
明らかにおかしな奴を見るような目を向けながら、それでも優しく事情を尋ねてくれる船長に、カオルは大変申し訳なさを感じながら、自分たちの名前と、神国から訳あって逃げてきたこと、1年間森を彷徨っていたことを話す。
「そうか…。カオル…奴隷にされた恋人のために頑張ったんだな…泣ける話じゃねえか。そんなことがあって、しかも1年間くらいあの果ての森を歩いてたってのか。そりゃ、多少おかしくなっちまってもおかしかねえな…。でも安心しろ!俺たちも仕事を終えて、帝国に帰ってる途中なんだ。そのついでって感じにはなるが、嬢ちゃんたちをちゃんと人里まで送ってやるからな」
船長とクルーたちは2人の過去を想像して、目に涙を浮かべていた。神国から抜け出した理由について正直に話すわけにはいかなかったため、ぼかして話すしかなかった。その様子と、奴隷を連れてここまでの苦難を乗り越えたという事実は、船長たちの中で一つのメロドラマを簡単に完成させたのだった。
しかし、カオルは不本意ながらこの1年間でおかしくなったという自覚はあった。つまり、船長たちの想像は概ね正しいのだ。ただ、フタバは最初からこの様子で、実際には奴隷でもなんでもなく、趣味でこの格好をしているだけであり、おかしくなったなんてことはなかったという特大の乖離がそこに存在した。
それを認識したカオルは、もはや何も言えず、死んだ目を「そういうのも素敵ですね」などと宣うフタバに向けながら、首を縦に振ったのだった。




