メイドの流儀〜安"あがり"の奥義〜
火と油が苦手な方への注意、ブラウザバックをオススメします。
レイは風間や黒田、クロォイの試合が行われる場所とは別の会場で試合に出場していた。3人は、受付の時点でそれなりの強さを見せていたため、盛り上がる本会場での試合を行う運びとなったわけだが、彼女はこちらであった。
そういった事情を知って、レイは割とショックを受けていた。なぜレイだけこちらだったかというと、受付の申請書にバカ正直に職業を「メイド?」と書いたためである。
もちろん、メイドにも強い者はいるだろうが、このような書き方をしては侮られて当然である。虚偽とは言い切れないのだから、「メイド」と書けばよかったのに。
何はともあれ、レイはまず、確実に本会場で行われる決勝進出を狙っていた。それには既に勝ち進んだあの3人と確実に戦うことになるが、彼女言うところのメイド魂が彼女に自信を与えていた。
レイの名が呼ばれ、初めて彼女は会場に立った。観客席は閑散としていたが、凛とクロエの姿が見えた。
「レイさん頑張ってーー!!!」
「レイの実力、ここで見れる、ですか!楽しみです!」
この子達の応援があれば百人力、彼女はそう思いながら、相棒のフライパンを右手に、ナイフを逆手にして左手に構えた。既に会場に立っていた対戦相手を見る。対戦相手は山のような巨体に、ハンマーを担いだ大男だった。
「ガキどもの世話でもしとけよ、メイドちゃん?」
「メイドを…メイドを侮りましたね!後悔させてあげましょう!」
レイが大男の、テンプレのような文句に言い返すと、試合開始のゴングが鳴った。先に動き出したのは、大男であった。彼は、レイに近づき、ハンマーを振るう。彼は一気に試合を終わらせるつもりであった。弱そうだったからだ。しかし、その目論見は、ハンマーを容易くフライパンで弾かれたことで外れることになる。
「フ、フライパンでハンマーを!?白昼夢か!悪い夢か!?」
とても現実とは思えない現象が彼を襲った。ここまででわかった通り、レイはこのような戦いをする者である。つまり、レイの防御手段だけでなく、攻撃手段もまた、馬鹿げているものだった。馬鹿げているでは済まされないものであるが。
彼女は唐突にスカートの中から油を取り出し、フライパンに油をたっぷり入れた。さらに、レイが魔法で熱を生み出し、これをフライパンに伝えると、油が一瞬にして煮えたぎった。これに要した時間、秒数にして10秒。大男は呆然として、これを見守ることしかできなかった。そして、この油によって実に、実に非常に非情で残酷な攻撃が行われるとは思いもしなかった。…、察した大人たちは、協力して凛とクロエのような子供たちの周りに魔法で闇を生み出し、子供たちから、"それ"が見えないようにしていたのだが。
「メイドの技を食らいなさい!料理中護身術、油飛ばし!素揚げになっちゃえ!!!」
大男、素揚げにされて再起不能。全身に3度の火傷を負うも、高名な治療魔術師の献身により、1時間で完治。
レイ、第一試合突破!!!
なお、第二試合、第三試合の対戦相手がこの試合を知り棄権したため、乱闘試合に不戦勝で勝ち進んだ女として伝説となることを、レイはまだ知らない。




