帝国へ行け
黒田と風間は会話した後、皆がよく集まっている食堂に向かう。そこには、アナとクロォイ、レイと凛がいた。
「風間さん、黒田さん、ちょうど聞きました。私たちも帝国に行きますよ!」
「私もいく!」
食い気味に2人に迫られ、少したじろぐ。しばらくの間、船の中で退屈にしていたからだろうか、必ずついていくと言わんばかりの様子だ。
「あ、ああ。行くか」
「ふっ…、いろいろ揃えてはいるつもりじゃが、船内の生活はなかなかに退屈じゃからな。帝国で楽しむといい。…、ところで、帝国杯じゃが、ここのクロォイが実は何度か出場経験があるうえ、三位を勝ち取ったことがある。こやつも出るという」
そこで、アナの背後に控えていたクロォイが一歩前に出てくる。そして、黒田に彼女の背丈ほどのグレーの杖を差し出した。
「頼まれていた物です。ようやく完成しましたので、お持ちしました。…、しかし、杖ですか?剣にも負けぬ程強靭なウルタの大木から掘り出した物とはいえ、あなたの能力なら剣の方がよいと思うのですが」
もっともな指摘だった。黒田の能力は、杖では発動しない。
「いや、これでいいんすよ。正直、剣の能力なんかもらった時はハズレだと思ったっすから」
「なるほど…、能力よりも自身の技そのものに自信があると…、いや、お見事。年甲斐もなく、血が騒いできましたな、風間どの?」
「ふっ…そうだな」
そこで、様子を見ていたレイが声を上げた。
「私も出場します!元メイドとしては、執事には負けられません!」
なぞの対抗心を燃やしていたのだった。しかし、特にそれを止めるものはいない、皆血気盛んだったのだ。強そうな者が出るなら文句はない、ということだろう。
「みんな、頑張ってね!」
この素朴な少女が彼ら彼女らに毒されることのないよう祈るばかりである。
「さて、ノア!行き先は帝国じゃ、飛ばしていけ!」
「了解、アナ」
船の中で過ごすこと数十分程で帝国に到着する。窓の外の風景が恐ろしく早く変化し、それに恐怖を感じる者もいたが、特に問題はなかった。
「ここが、帝国か」
「そうですな、ここは見ての通り、魔法都市。魔法のない世界から来たという人にとっては最もわかりやすい、異世界になるでしょう」
「確かに…、なんかあっちが気になるっすね。千鶴は別に行動するっす、大会で会うっすよ」
そう言ってさっさと人混みの向こうに消えていってしまった。
「じ、自由な人だね、黒田さん…」
「凛ちゃんいいですか?大丈夫だと思いますけど、迷子にならないようにマネはしないでね」
ここから別行動となります。まず、黒田サイドの方から進めていきます。




