記録01_b
「黒田ちゃん、黒田ちゃん!」
う、ねむ…。ひまりっち、なんすか?
「黒田さんが寝てる間に、異世界召喚されたんだって!」
イセカイ…召喚?
「別の世界に連れてこられたの!とにかく、早く起きて!」
「わかったっす…。陽葵っち…」
目を開けると、確かに日本っぽくない…、いや、私らの世界とは全く違う光景が広がっていたっす。どうも城のようっすが、電気ではない何かで動いているものがいくつか、重くて動けないだろうという鎧を着た連中、兵士だろうか?そんな奴らもいる。
「それで、今どういう状況なんすか?」
「目の前の大きい椅子に座ってる人がこの国のトップで私たちを召喚したんだって。今その説明中」
「なるほど、あいつに落とし前つけてもらえば帰れそうっすね」
小声で話したつもりはないが、さほど大きく声を出したわけでもない。それなのに、千鶴の発言が聞こえていたらしく、兵士が私たちを取り囲んだ。
「貴様!教主様に落とし前をつけさせるだと!?そんなもの貴様らにつける必要があるか!この地底人どもが!!」
教主…、それに、間違いなくネガティブな使われ方をしている地底人という言葉…、私らの世界を下に見てる宗教…?それで召喚…、信用できないっすね。なんとか陽葵っちと逃げたいところっすが、今はこの場を切り抜けることを考えましょう。
「すみません、この子起きたばっかりで、しかもいきなり別の場所に連れてこられたから、混乱してるだけなんです。教主様、申し訳ありません」
そう言って陽葵っちは土下座したっす。千鶴の責任なのに。ひまりっちのおかげで、そこはなんとか許してもらえて、そのまま話が続いたっす。
「まあ、よい。お主らには、能力がある。世界をその手に掴む悪虐の王たち、魔王を打倒する能力がな。その力をもって魔王を討伐して欲しい」
能力、それはいったい。
「能力だかなんだか知らないが、拉致っておいてなんだ、ちゃんと帰れるんだろうな?」
瀬野がそう言って教主を睨みつけたっす。だいじな2人がいるからこそのクソ度胸って感じっすね。そのクソ度胸、見習いたいものっすが、今は勘弁して欲しい、だってほら。
「…、お主ら、弁えろよ」
静かに怒りをあらわにしている。兵士たちは今にも槍を、剣をこちらに振りかざしそうな勢いだ。
「安心しろ、帰れるさ。魔王を倒せばな」
クラスメイトたちは安心したような感じっすが、何人かは違ったっす。先生と、ひまりっちと、鍬崎、瀬野、あと…白雪さんっすね、話したことないからあってるかわからないっすが。なんか骨格が変わってる気がするんすけど、多分白雪さんっすね。多くの男がひと目見て惚れるような可愛らしい姿っす、しかし男っす。
ともかく、なんとかこの面子で集まって今後の方針を決めたいところっす。
千鶴が考え込んでいる間に、自分の能力を知る方法を教えられてたみたいっす。目をつぶって自分の奥底を意識すれば知ることができるそうで、皆が目をつぶってたから自分もまねたっす。
「勇者としてある能力、これは何ですか?」
鍬崎がそう言うと、全員が騒ぎ出したっす。どうやら勇者としてある能力は、今までも何人か出ており、その中身は異なっていたようっすが、どれも極めて強力だったと。
「あらゆる物を剣で断ち切る能力…すか…」
正直ハズレだと思った。家が道場で刀を扱ったこともあるが、千鶴のメインは槍と杖だったっすから。
「なに?!おい、この女に剣を用意しろ!この女は対魔王の決定打となりえる!」
そう言われて、別の場所に千鶴だけ連れて行かれて、立派な剣を渡されて何度か兵士たちと模擬戦をやらされたっす。能力を使うまでもなく、全員を倒したっす。ただ、気になったのは、明らかに力が強くなっていること、体が頑丈になっていること、聞くと、こちらに存在している魔力とかいうもので、勝手に強くされているらしいっす。
その後、千鶴はクラスメイトの誰ともあうことを許されず、ずっと訓練させられていたっす。ただ、訓練の日々で城とその周辺の地図を作ったり、脱出の作戦を1人で立てていて、ついにその時が来たっす。
まあ、瀬野に洗脳されて失敗したんすけどね。なんであんなことしたすかね。千鶴はわかんないっす。ただ気になるのは、どうして千鶴が負けた?いや、奴が腹に隠したものに気付かなかった自分の落ち度っすね。負けたとかそういう話じゃないっす。




