後始末
カルクに指摘され、壮一たちは船まで戻ることにした。壮一が懐からマジカルフォンを取り出し、アナに電話をかける。
「風間だ。ケジメはつけた、拾ってくれ」
「わかった。その必要はないぞ」
「おい待て、そりゃどういう…うおっ!?」
壮一たち3人はまとめて、足元にできたゲートに落下し、気づけば船内だった。
「お…と、これは便利っすね。千鶴も魔法を使えるとよかったんすけど…」
「この魔法を使える人は希少ですよ、黒田さん。それよりも、ルメシュ首相就任、おめでとうございます。アナトリア様」
カルクの問いに軽くうなずき、アナは話し始めた。
「元王族改め首相アナトリアじゃ。まあその辺りはまたにして、そなたたち、大儀であった。アレン殿は一度会ったことがあったな、変わりないようじゃ。してその方は?」
「黒田っす、よろしくっす。風間さん、この人が風間さんの言ってた人っすか?」
風間は頷いて答えた。その様子を見ていたアナは黒田に尋ねる。
「ほう…、異世界人じゃな、帰りたいか?」
「もちろんっすよ、手を貸して欲しいっす」
「よかろう、褒美じゃ。しかし、わしにも限界があるからの、お主にも動いてもらうことになる、よいな?」
「もちろんっすよ、元からそのつもりっす」
その返答を聞いてどこか安心したような表情を見せた。無茶振りをされなくてよかったと思っているのだ。
ーーこんな顔をするのか、あの生ける伝説も。
カルクは不思議に思った。
「カルクにも何か礼をせんとな。復興の支援をする、それでよいじゃろ?」
何か含みのある言い方だったが、それでカルクは納得して答えることにした。
「感謝申し上げます。首相」
「ふ…、で、壮一よ。魔族はおったか?」
「魔族いたって話っすよ首相。何かされたりはしなかったそうっすが」
「…魔族は一体何を企んでおるのじゃ全く…」
空の雲がアナの顔に影を落とさせる。風が窓を叩きつける音がその場に響くだけだ。
「情報が少ないな…、他に何か…そうじゃな、消えた人間はいたりせんか?」
驚いたのは壮一と黒田だ。まだ海部や瀬野の話はしていなかったからだ。
「そうだな…、黒田と一緒にこっちに召喚された聖女…海部さんと瀬野って奴なんだが、俺たちが瀬野と戦ってるうちに海部がどこかに消えていて、瀬野は逃げていった。ああ、そういえば、やたらと瀬野は海部さんを警戒してたようだったな」
「怪しいの、瀬野という男とはなぜ戦うことになったのじゃ?」
「わからん…なにか訳ありのようだったが…、それと海部さんもこっちに協力してくれていたし、わざわざ消えるわけがわからん」
そこで何か閃いたのか、アナが下を向いてボソボソと独り言を始めた。邪魔をしないようにアナ以外は黙って見守る。
「海部とやらが消えた理由は予想がついた、証拠は何もないがな。瀬野に関しては、おそらく海部の何かを知っているか、瀬野の背後にいる者…魔族かも知れん、そやつらに何か聞かされていたか…確定はできんが、今予想がつけられるのはそこまでじゃな。して壮一、黒田、海部という者についてお主はどう思う?」
「なんというか、あんた程ではないが、大物特有の空気を感じる人だった…だが、信用できる奴だ…そんな風にも感じた」
「千鶴も同じくっす。学校でもなんていうか、陽葵っちはなんか違うって感じがしてたっすね。でも…いい人なのは間違い無いっす」
「なぜじゃ?」
「なぜって言われても…その…わかんないっす…」
非常に困った様子を見せながら考え込んだ黒田だったが、結局答えは見つからないようだ。
黒田の海部に対する評価の理由は、黒田以外は気付いたようだったが。
「よっぽど、海部というやつは魅力のある…、悪い女のようじゃな…」
「陽葵っちは悪い人じゃないっすよ!?」
「黒田、アナは分かっている。だからこう言っているんだ」
「どういうことっすか、もお!?」
「フッ…、黒田よ、この船には空いておる部屋が多いから使うとよい。これが鍵じゃ、場所はその辺の者に尋ねよ。元の世界に帰ると言っておったが、海部を探したいじゃろ、そっちを優先させるとよかろう」
ジメジメとした不快な空気はいつのまにか消え去り、誰も暗い表情をしていなかった。一人、その代償として笑い物になってしまったが。この後、カルクはアマテラーへと戻り、黒田はアナに渡された鍵を受け取ると、すぐさま部屋を飛び出していった。
「フッ…若いってのはいいな」
「ジジ臭いの、お主」
やっと次にいける。次回からの黒田の活躍にご期待ください。




