暗雲
「…やばい、あいつを通り抜けることは不可能だと思ってたが、まさか、魔法で夢を見せてそれを可能にしやがるとは…」
教会の最上階で男がぼやく。その場には8人の男女がいる。ただし、1人を除いて全員が死体として、そこにいた。死んでいるのは教会の幹部たちだ。男は頭を5分ほどかきむしり、突如後ろを向く。
「おい、俺はこいつらを始末したぞ、約束通り俺の弟たちを返せ」
そこにいたのは、黒い翼の生えた女と、2人の男女。しかし、2人の男女の顔からはまるで生気が感じられず、死んでいるようにも見えた。
「ちっ…中身はまだ返さねえつもりか。わかったよ、風間も海部も、黒田もまとめて始末してやる。それでいいだろ?」
男の言葉を聞いて、女は消えた。消えたのを見てから、男は再び考え始めた。
「海部…聖女の能力だかなんだか知らんが、得体の知れんやつだ。風間とやらは脳筋のはず、黒田があいつを倒す策を考えられるとも思えない。としたら、海部が残るが…、海部も黒田も夢を見させる魔法なんてもの覚えてるのはおかしい。どこからそんな魔法を覚えたんだ」
再び男は考え込み、無表情で座り込む2人を見つめた。2人を見て、ある情報を男は思い出す。
「あの魔法には理論が必要だ、聖女の能力にそれを知るものもあるとは思えねえ。あいつの能力は本当に聖女の能力なのか?あれは単なる魔法を使ってるだけで、能力はまた別のもの…」
しかし、その結論には男自身が納得がいかない部分があった。
「あの能力に魔法特有の魔力の動きは見られなかった…、あれは間違いなく能力による回復だ。それに、なくなった体の部位を完全に復活させるなんて魔法じゃ無理だ。てことは…、まずいな」
男、瀬野亮矢は彼にとって最悪の結論にたどり着いた。瀬野は海部に対して、先制攻撃を仕掛けるべく動き始める。
瀬野が立ち去ってから、最上階にたどり着いた壮一たちは、待ち受けていると思われた人物たちの死体を目にした。さらに、外傷は見られず、どうやら全員が首を折られて死んでいるようだ。
「これは…どういうことだ?」
「やったやつは多分あいつっすね…。瀬野おおおおお!」
黒田が突如叫び、壮一と海部の前に出て剣を振るった。すると、2つに分かれた札が一枚現れ、地面に落ちる。それと同時に壮一たちの目の前に瀬野が姿を現した。
「自分、これを瀬野に貼られて操られてたんすよ。もう札は見逃さねえっすよ」
「よくやる。見えねえように魔法かけてたのによ。ただ…、海部!おまえ、見えてただろ?」
瀬野はカマをかけた。ただ、視線が少し、まだ切られる前の札に向いているような気がしたのは確かだった。
「え?ていうか瀬野くん、いきなりこんな物投げるのはなしじゃない?」
海部の反応にわざとらしさはない。瀬野は考えすぎだったかと安心した。これで最悪のパターンは避けられたかもしれない、と。
「なら、まだ俺に勝機はある。まずは、風間、黒田!お前らには俺の土俵で戦ってもらう!」
壮一と黒田の視界が光に包まれる。2人は体が端の方から消えていくのを目にした。
「な、なんだこれは?体が消えていく!」
「だああ!こんな魔法ありっすか?!」
2人が叫んだ次の瞬間には海部以外の全員が消えていた。それを目にして海部は何かを呟き、その場を去った。
暗雲立ち込めるジンパク編最終決戦です。もう少しジンパク編にお付き合いください




