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異世界子守道中  作者: トライド
第二部 神国ジンパク
71/122

-like a mad hound

「どこ行きやがった…!あの野郎!」

 敵に背を向けて走り去った壮一は、勇者の視界から完全に逃れた。その事実が勇者に異常なほどのストレスを与えていた。

「クソがっ!俺のこと何度も殴りやがって!!そいつがあっさりと逃げやがるなんざ許せねえ。アイツのダチとガキどもをあのくそったれの目の前で惨たらしく殺して、あいつにも死んだ方がマシな目があわせてから殺してやる…っ」

 そんな勇者の視界に誰かの背中が映った。

「見つけたぞ…」

 憤怒にまみれた狂笑が響き渡る。その笑い声はまるで、獲物を追い詰める猟犬のようだった。


「見つけたぞ、風間ァ!セイっ」

 勇者が壮一に追いつき、そのまま斬りかかる。その斬撃はこれまでのどの斬撃よりも冴え渡り、速かった。

「まず…グっ……アアアアア!」

 その斬撃は、壮一の右目を正確に切り裂いた。ガードも避ける時間もなく、一切のなす術を与えぬまま。

「しゃあ!その高みに俺はたどり着いたぞ!そんでお前に勝つ!」

「クッ…血が騒いできたな…。今のあんた、猟犬みたいだな。執念深く…、勝利に貪欲だ」

「猟犬か、今の俺にゃピッタリだ!お前という獲物を食い殺す獣だ!」


 今、決闘が始まる。お互いに、この一撃に全てをこめるつもりだった。壮一は懐に手を突っ込み、その両手にメリケンサックをはめて構えた。


 勇者は剣に魔力を込めた。その剣は神々しく光り輝き、そこから転じて、突如禍々しい闇を放ち始めた。


 2人の目が合ったまま、数秒経過し、同時に動き始める。その次の瞬間には、二つの剣が衝突した。

「なにい!てめえ洗脳されてたはずじゃ!?」

「ガラ空き」

 勇者は顔面に拳をくらってしまう。そのまま、背中に何か触れられたような気がした。


「助かった、俺だけじゃ…、殺されていた。それに海部さんのおかげで目も治った。感謝しきれねえ」

 その場にいたのは、壮一と勇者だけではなかった。海部と洗脳されていた少女もいたのだ。海部の魔法により、壮一の右目は完治している。


「いいっす、感謝するのはこっちっすよ。風間サンあざっす。自分黒田千鶴っす、よろしくっす」

「ああ。風間壮一だ、よろしく頼む」

「それにしても、勇者としてある能力…ですか。もしかしたら、全滅していた可能性もありますね。それくらい危険な能力でした」


 海部の言葉に2人がうなずく。海部がため息をつき、また話し始めた。

「正直、風間さんが能力の予想をたてて逃げてきてくれなきゃ私もこの作戦を立てられなかった。それに黒田さんを助けてなければ、この作戦は成立しなかったでしょう」


「それについちゃ、あんたに頼りきっちまった。俺にわかったのは、俺の知らないところで戦いを繰り返していた…ってところまでだったからな」


 勇者との戦いと言動から、壮一は一つの仮説を立てた。勇者の能力の全貌はわからないが、少なくともその能力で風間壮一と同一の能力を持った何かと何度も戦っていたということだ。それこそ、自身の戦い方と、そのクセを熟知できるほどに。


 だからこそ、逃げた。これ以上、知られないために。そこで海部と復帰した黒田に出会ったのだった。海部に勇者との戦い、その言動を告げると、能力を推理し、作戦を話し出した。


「まじ鍬崎の能力が「負けた時から戦いの始まった時に戻る」っつーヤバイ能力とかもう詰んだと思ったっす」

「それで海部さんが、俺が注意を引きつけ、黒田が剣を防ぎ、あんたが戦い続ける夢を見させる魔法をかけてそのまま気絶させるって作戦をたててくれた。俺1人じゃ、無理だったな」


 海部が少し照れたように笑って、言った。

「よし、じゃあ行こう」

 3人は揃って階段を登り始めた。最後に残った黒幕と対峙するために。

時間系能力の扱い方困る

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