聖女との邂逅
聖女と遭遇した壮一、彼は驚きを隠しきれず、それが聖女に伝わってしまった。
「あ、あたしは聖女。バレちゃった?まあいいや。この歌綺麗だよね」
聖女はフランクに壮一に話しかける。どうやら杞憂であることに気付き、安心した壮一だったが、また驚くことになる。
「ああ、そうだな…。もしかして、あんたその顔にその言葉、日本人か?」
壮一が気付いたのは聖女が日本語を話していたこと。こちらの言葉に慣れていた彼にとって、懐かしさと新鮮さを感じさせるものだった。
「日本人…あ、お兄さん日本人だー!だからあたしも日本語喋ってるのか」
「ああ、俺は風間壮一だ。俺と、宇多野凛って子がこっちに来てる。俺たちは、なんだ…、総括者ってやつの不手際でこっちに来ることになったんだが、あんたはどうしてこっちに?」
「あたしは海部陽葵。なんか授業中床がピカッと光って気付いたらクラスのみんなここにいてさ、この国の人たちが召喚したんだって。召喚した人が言うには魔王って人倒したら帰れるらしいけど、せんせーが言うには倒したとしても帰れない可能性が高いって。迷惑な話だと思わない?」
そこまで言って聖女の笑顔が消えた。何かに気付いたようだ。
「ごめん、お兄さん、見られてる。まだお話したいから、尾行に気をつけてヘレナ孤児院まで来て欲しい」
「よくわかったな…そうさせてもらう」
ーこいつら…今日はいつにもましてしつこい…!
聖女は街を歩き続けていた。歩き続けざるをえないのだ。聖女は自身がヘレナ孤児院に滞在していることを教会には言っていない。それは、彼女の先生の助言によるものだ。
『海部さん。君は幸か不幸か、こちらの世界でいう、聖女としての能力を持っているらしい。教会は信用できないし、君はいいように利用される可能性がある。彼らには警戒を怠らず、手の内を明かしてはいけないよ』
「うぐあ」「ぐふっ」「ぎえ」
彼女が監視を撒くための策を考えていたところ、鈍い音と悲鳴が何度か聴こえてきた。彼女が振り向くと、そこには壮一がいた。
「あんたを追いかけてた奴らには、全員"寝て"もらった」
「えぇ……?」
聖女からは壮一の奥の陰に、誰かが倒れているのが見えた。
テーブルの上には紅茶を淹れられたカップが2つならび、湯気を上げていた。その一つを少し飲んでから、壮一が砂糖をぶちこんだ。
「砂糖入れすぎじゃない?」
「運動した後は、糖分が多めに欲しくなるんだ…。しかし、この紅茶美味いな。話の続きをしよう」
「それが多めって、美味しいならいいか。さっきのでわかってくれたように、結構面倒な状況になっててさ、これも縁ってことで助けてくれない?」
壮一は考える。これは上手くやれば、凛以外だと久しぶりにあった日本人を助けられ、自分の目的も達成できる。まさに一石二鳥だと。
「ああ、いいぜ。実は俺はハナからここの教会を潰しにきてて、あんたに会ったのも協力者に頼まれたからなんだ。事情もわかったし、海部も俺に協力してくれると助かる」
「潰す…、ですか。でも、難しいんじゃないかな。風間さんが強いのはさっきわかったけど」
「なに?」
海部は少し考える素振りを見せてから話し始める。
「クラスメイトとこっちに召喚されたって話はさっきしたよね。そのクラスメイトも教会にいるんだけど、チート?ってやつを持ってる人たちがいて…しかも、完全に教会の一員になってるみたいなんだよね」
「つまり、そのチートとかいうものを持ってる奴がいるから、俺でも厳しいんじゃないか、てことだな?」
海部は頷いて答えた。
「そのチートってのはどんなものなんだ?」
「チートはその人が特別に持ってる能力で…たしか…教会の人たちがすごいって言ってたのだと…攻撃を隠す能力、あらゆる物を剣で断ち切る能力、無尽蔵の魔力を貯蔵する能力、それに…これがたぶん一番ヤバくて」
そこまで言って、海部は一区切りつけた。その空気に思わず壮一は飲み込まれる。
「勇者として在る能力」
壮一はこれからどうするのか、どのように戦うのか。ジンパク編も佳境に入りましたね




