黒い物体
壮一たちはクロォイと出会い、彼の案内で操縦室の前まで戻ってきた。クロォイが去って角を曲がって見えなくなった時、ノアの声が操縦室から聞こえてきた。
「どうやら呼ばれているみたいだな、入るか」
壮一が扉を開けると、既にディスプレイにノアが映っており、なにやら不機嫌だった。
「もー、みんなすぐに外に行っちゃって。もっと話したかったんだけど!」
「ご、ごめんなさい。なんだかアナさんに夢中だったし、邪魔かなって思って」
「ぜーんぜん邪魔じゃないです。このノアの頭脳を舐めてくれるなあ、同時に複数人相手するくらいお茶の子さいさいですから」
「ていうか、あなたの素はそんな砕けた感じ、ですね」
ノアは最初こそ、理知的な雰囲気を醸し出していた。だからクロエたちがノアの豹変に驚いたのも無理はなかった。
「ところで、どうして私たちを呼んだ、ですか?」
そうクロエが尋ねると、途端にノアの表情が真面目なものになった。
「この船の進路上のジンパクの首都上空に妙な気配を探知しまして。…、アナと彼が出ても危険なものかもしれませんので、壮一さんに協力していただきたいんです」
「…、仕方ねえ。アナに関わってるんなら手伝ってやる。だが、俺以外は使うな」
「ふーん…、わかってますよ。ええ、ええ、もちろん」
壮一を見下ろす、冷たい目が電子の虚空に浮かぶ。気味の悪さがそこにあった。
3人の男女が黒い何かの近くを飛んでいる。アナ、クロォイ、それに壮一だ。
「たしかにこれは、妙なものだな」
「これは…、一体何なのでしょうか?」
3人が見つめる先には、球状の黒い物体があった。クロォイと壮一の2人は怪しく感じたが、アナはもう興味を失ったようだった。
「お主らは気にせんでもいいのじゃ。クロォイ、お主をこんなことに付き合わせて、すまんかった。壮一もな」
「お気になさらず、アナ様」
「あんたがそう言うなら、俺は気にしないことにしよう」




