空へ その2
レイたちは搬入口から箱のような部屋に案内された。アナがボタンを押すと、その部屋は上へと上がっていった。レイがアナにこの不思議な部屋について尋ねると、魔力で上下に動く部屋であるという。それを聞いた壮一がエレベーターという言葉を口にしていた。そこには、一つの街があった。家が建ち並び、いくつか店までもある。多くの人で賑わっていた。
「ようこそ、我が新たな寝ぐらへ!ここには家、飲食店、服飾店、娯楽関係、割となんでもあるのじゃー!」
呆然とするレイたちにアナがいたずらが成功した子供のような表情で言った。アナの求める反応が得られたようだ。
「これは、本当に船なんですか?移動ではなく、別の目的のために作られたように感じるんですが…」
「ああそうじゃ。船ではあるが…、確かに移動のためではない。最悪に備えたものじゃからな…」
「それってどういう…」
レイの言葉はそこに現れた女によって遮られた。
「あら…、壮一たちじゃない。ここには城の家臣と家族たちしかいないから…久しぶりに人と会えて嬉しいわ」
「ああ、久しぶりだな。だが、城の家臣と家族でもだいぶいるだろ?」
「こいつ、城の中じゃほとんどぼっちじゃったから…」
その後、見せたいものがあるから着いて来いというアナに従って、ルーシーと別れてレイたちは歩き出した。凛がそれが何か尋ねても、まだ秘密だという。ルーシーは知っていた様子で、見たら驚くと言っていた。
数分後、彼らはこの船の操縦室に着いた。そこには、操縦室とは名ばかりで、何もない。ただ、正面の壁が鏡のようなもので覆われていた。
「ノア、映すのじゃ」
「承知しました、アナ」
どこからか女の声がした。それがアナの言葉に答えたのだ。
「ど、どういうことなの?」
「今、そこに私を映します。正面をご覧ください」
辺りを見回していたアナ以外が正面の鏡を見ると、そこには人が映っていた。アナに少し似ているが、彼女とは違い、穏やかな雰囲気の女性だった。
「初めまして、アナのご友人たち。私はこの船の頭脳を務める、ノアと申します。先ほどの声は画面の私が発したものです。驚かせたみたいで、申し訳ありません」
「この船を動かしてくれとる人工知能のノアじゃ!」
「人工知能…えっ、AIってやつなの?!」
凛が声を荒げて言った。それに答えたのはアナだった。
「確かにそうじゃ。しかし…、誰にも教えたはずは…。ああ、なるほど。貴様らは…異世界人じゃったな」
「異世界人…まれびとのこと、です?」
レイとクロエが異世界人である壮一と凛に注目した。彼らを見ながらクロエが尋ねると、ノアが答えた。
「その通りです。あなたはルメシュ国の南方の方ですね。異世界人とは、あなたがたの故郷でまれびとと呼ばれていた人を指す言葉です」
「む〜、もっと良い反応が得られると思ったんじゃが…がっかりじゃ…」
「ハハハハ…。アナ、仕方ありませんよ。この世界だけでも、数え切れないほどの可能性があるんですから。私が慰めてあげましょうか?」
「いや…別にええから…」
「このノアはもしかして、人間のそれと同等の感情をもっているんじゃないか?ここまでのAIを…俺は知らない」
ノアの仕草は非常に人間味があった。表情の変化や声音が、目の前の彼女が本当の人間であるかのような錯覚を覚えさせた。
「ああ、そうじゃ…。しかしの…、感情がある分厄介なところもあってな…。…、ほら来たのじゃ!誰ぞ、早く奴を止めるのじゃ!」
アナが操縦室の扉の方を指差して叫んだ。そこには画面に映っていたノアと全く同じ姿の女がいた。
「アーナちゃん!可愛いー!今日の午後13時17分43秒ぶりです!!!」
凛はもちろん、壮一やレイ、クロエもあっけにとられ、その間にアナは捕まった。アナは抱きしめられ、耳もとで何かをささやかれている。いつのまにか、画面の彼女は微動だにしなくなっていた。それを見たレイが何かを察して言った。
「うわぁ…、アナさん、大変ですね」
「レイ、そう思うのなら早くこやつを剥がしてくれ!」




