アレン・カルクという男 その二
「断る。もう俺たちは…俺は、もううんざりなんだよ」
壮一は、今回の一件で可能な限り面倒ごとを避けることにしていた。その矢先に協力を求められても、断るに決まっていた。
「やっぱりそうですよね。ただ…、覚えといてください。この国は危険だって。私はあなたが協力してくれる日を待ってますから」
そう言ってアレンは下水道の奥へ消えていった。
「危険っていうのはどういうことだ?」
壮一の問いに闇の中から答えが返ってきた。
「残念ながら、この国は良いところとは言えません。この街は私が彼らから守っていますから、良いところかもしれませんが。...、自分の欲を満たすことしか頭にない方々がこの国を支配してます。ルメシュ王国の知られざる英雄、風間さん、この国を旅するなら、十分にお気をつけを」
壮一は下水道を出た、不安を感じながら。彼にはこの国は良いところに思えた。このアマテラーという街は活気に溢れ、街の人々は親切だ。チェアマンは例外としても、この国が危険であるとは思えなかった。しかし、アレンが真剣に忠告してきたのも事実。壮一は今晩、レイと相談することにした。
ーなんて考えてたらもう宿か。
壮一は扉を開け、宿に入った。そこには、退屈そうにカウンターに座り、背中をこちらに向けているレイがいた。
「あー暇です。大将さん、何か面白いことないですか?」
「もう何回目だよそりゃ。そんな大怪我するおまえさんが悪い」
この宿屋の店主がうんざりした口調で言う。レイにしつこく絡まれているようだ。
「いやー、それもそうですが、何かお願いします」
「仕方ねえな、そんなら俺がルメシュ王国でドラゴンが生息する谷でやべえガキに会った話を」
「よう、レイ。暇してるみたいだな」
「良いところに来ましたね。ほらほら座って」
壮一が来たのを見た時点で店主はどこかに去っていた。よっぽどだるかったらしい。
「この国が危険、ですか?」
「ああ、今朝の男、アレンが言っていた」
壮一がそう言うと、レイが訝しがって返した。
「そうは思えないんですが...、いや。思い出しました」
「なに?」
「私が仕えていたアインス家、妙にこの国との関わりが多かったんですよね。だから私もこちらに来たことがあるんです。その時、こちらの首長や、教主の方々と妙な商談をしていたんですよ。私の雇い主が相手の提示する金額を聞いて、買うか買わないか決めるだけの。一番おかしいのは、何を売買するのか全くわからないことです」




