筋書き
「なんで、なんで、なんで!私を攻撃しない、ですか?!」
レイはボロボロになって立っていた。それもそのはず、一切クロエに反撃していなかったからだ。途中までは全く弾に当たらず、無傷だったが疲労が蓄積していった。その結果、防ぎきれなかった、あるいは避けられなかった弾が彼女に直撃していた。致命傷を避けているとはいえ、痛々しい姿だった。
「…そんなことできるわけないじゃないですか。だって私、クロエさんを傷つけたいわけじゃないですから」
「だからってやりようはあるはず!これじゃ、私が、私が…!」
クロエはそれから先を言えなかった。言ってしまえば、もう自分が耐えられそうになかったからだ。
「…よかったですよ。とりあえずそれが聞けて」
その声はクロエの背後から聞こえてきた。クロエが逃げようとするも、地面に優しく押さえつけられ、銃を奪われた。
「この程度ではダメです。あなたがしたいことすら満足にできないまま、のたれ死んでしまいます。今は…、私に勝てるようになるまではダメだってことで納得してくれませんか?」
銃口を後頭部に突きつけられ、自身の弱さを恥じた。レイの自分を思う気持ちを感じ取って、自身を情けなく思った。これで、クロエはもう諦めた。
「…わかった、です。わかったから、早く帰ってその傷、治療してくれ、です」
「えへへ…、それもそうですね。はい」
「そんじゃ早く帰りな。クロにあんたら。もう空も白くなり始めた。オレもそろそろ完成させないといけない…ンでなア!」
辺りに鮮血が撒き散らされ、断末魔がその場を支配した。
「…はぁ…、私たちはもう帰るです。ところで、チェアマン。もしかして、おまえの筋書き通り、だった、ですか?」
それを意に介さず、クロエは尋ねた。チェアマンは最初思っていたような者ではないと、わかったからだ。
「クロは、あるクソガキの物語を知ってるか?こいつがたまたま、そう、強かったんだ。それでな、ある貴族の息子に喧嘩を売られて、全部の歯を折っちまった。もうその後は予定調和さ!よくわからん理由で国賊扱いされて、家族が処刑されちまった!しかもその貴族の親はそれをオレに無理やり見させた。目を閉じても開けられてなぁ…。それで全員終わった後でこう言ったんだ」
「笑えるなぁってな」
「オレは笑ったさ!それからずっと笑ってる!だって面白いだろ?あんなクズが存在するなんてな」
それが、チェアマンの答えということだろうとクロエは考えた。
その後、その場にはやはり、チェアマンの作品だけがあった。




