四話
食事店に入店した壮一たちはひとまず飲み物を注文した。飲み物が出されてから少しして女が口を開く。
「私は、アメジストの出身のビーテよ…。姉がドラゴンを倒してくると言ってここから西にある、ドラゴンの生息地から帰ってこないの。あなたさえよければ…」
「なるほど、俺について来いということか?しかし、こちらもこの子を見てなければいけないのでな。あんたを気にする余裕はないぞ。」
まだ信頼できる者がいない、「縁」の無い状態でこの街に置いていくことは危険だ。暗に断る意思をもって答えた。
「それなら心配は不要よ。私は魔法使い、ドラゴンを倒せなくても、自分の身も、その子を守ることさえ可能。あと、報酬は出すから。ただ働きはさせない。」
「おじさん、私も魔法使いだから大丈夫」
「…まあ、いい。準備をして明日にでも行くか…」
凛のつぶらな目で見られて壮一は折れた。
「それじゃ、よろしく。明日、準備が出来次第この店に来て…。」
その言葉を最後に女は去っていった。
「どう思う、凛?」
壮一は何かを感じとっていた。嘘はついてないが、何かを隠していると。
「うーん、なんていうか、普通とは違うような…。悪い人ではないんじゃないかな。」
「そうか…、とりあえず街で買い物をするとしよう。」
店を出て、街で装備を売る店を探す。ギルドの近くにその店はあった。しかし、入ってみても店主は見当たらない。
「店主はいないか?」
呼びかけてみると奥のカウンターから音がした。
「いるよ、何をお求めかな?」
現れたのは紳士の見本のような格好をした高齢の男性。しかし、力強く、まだまだ現役といった雰囲気を持っている。
「ナイフと槍、魔法補助の杖なんかがあれば買いたいんだが。」
「わかった。ちょっと待っていてくれ。」
店主がカウンターの奥に行き、数分後再び現れた。
「これで良いかい?ナイフと杖は戦闘向きでよかったかな?」
「ああ、杖を小さめのサイズを持って来てくれてありがとうな、これをくれ。」
「どう見ても君ではなく、そっちのお嬢さんが使いそうだからね。全部で2万バリだよ。」
壮一が代金を店主に渡してから、凛が尋ねる。
「お菓子はないの?甘いもの食べたいな。」
「ああ、お嬢さん、これをどうぞ。私が作ったパイだよ。」
凛は美味しいようで夢中になって食べる。
「なんだかすまねえな。代金もまけてくれたようだし、パイまでもらっちまって。」
「いや、商売は信頼あってこそ。そして、客から好印象を持たれるともっといい。これは必要経費さ。」
「おじいさん、ありがと!」
「クク、今後ともご贔屓に。」
その後、別の店で食料やバックパックなどを買い、宿をとった。
「なんだか長い一日だったな。」
「そうだね、ドラゴンは可愛いのかな?」
「可愛いやつだと良いな…。」
そんなことはないと確信しながら、凛に答えた。