いざ神国へ
壮一たちが王都を出発してから2日経った。今、ルメシュ王国と神国の国境を越えようとしている。
「暑い!」
凛が限界だというふうに叫んだ。非常に感情のこもった声だった。
「神国…ジンパクはルメシュ王国に比べて温暖な気候ですからね。そんな暑いってわけじゃないですけど、ルメシュにいた人からすると暑いと感じるかもしれないです。あ、これジンパクの扇子という道具です」
そういってレイは扇子を取り出して凛を扇いだ。それにより先程まで辛そうな表情だったが、だいぶ和らいだ。
「扇子か…良い柄だ。扇子というと、あいつは元気にしてるだろうか」
「わかります?前にジンパクに行った時、これに一目惚れしちゃって、つい買っちゃったんですよ。その人も扇子好きなんですか?」
懐かしむような表情の壮一に、レイが尋ねた。壮一はレイの質問に困ったような表情をした。
「どうなんだろうか…。そうかもしれないが、奴は扇子に描かれてる人が好きだったらしい。たしか、リリカル・キラー…とか言ったか」
リリカル・キラーと聞いた凛が突然元気いっぱいの表情になって、興奮気味に壮一に尋ねる。
「私、知ってる!大好きなの!でも、欲しかったんだけど、お小遣い足りなかったんだ…」
「キラーって異国の言葉で、結構物騒な言葉だったはず、です。名前としてはおかしくない、です?」
クロエがひさしぶりに口を開いた。
「俺もずっとそう思ってるんだが…、最近はこんな感じらしい。それより、クロエは何してるんだ?」
銃弾に何やら魔法を使っているらしいが、よくわからなかった。それで、壮一は気になった。
「暑い、ですから。銃弾に込めた魔力で冷たい風でも発生させようと思った、です。…できた」
クロエがそう言うと、馬車の中で冷たい風が吹き始める。暑かった車内は涼しくなり、快適に過ごせるようになった。
快適な空間になったことで、凛とクロエが眠りだしてから、数時間経った。ジンパクに入ったところで馬車をとめ、血虎を労った。
「それでは、私は食事の準備をします。壮一さんは見張り、よろしくお願いしますね」
「ああ、わかった。任せておけ」
レイは馬車から離れていった。
特に獣に襲撃されるなどということもなく、料理が出来上がった。匂いにつられたか、単純に眠気が覚めたのか、幼女組も外に出てきた。
「今日は、シンプルにソテーにしてみました。さっき私が狩った新鮮なストロングボアの肉ですよ」
全員、いただきます、と言ってから食べ始めた。
「美味い、噛めば肉汁がいっぱい出てきて味が口の中で広がるのも良い」
凛も頷いて、同意を示した。
「嬉しいですね〜、料理人冥利に尽きますよ。それで……、クロエさんはどうですか?」
黙々と食べ続けるクロエが気になり、レイが声をかけた。
「美味しい、です。ストロングボアの肉を食べたことはありますが、筋が多いし、硬くて食べられたものじゃなかったです。でも、これは違う!ちゃんと筋を切ったり、下準備をして柔らかくしてある。さらに、肉の味を損ねないくらいに調整された香辛料との調和…素晴らしい、です」
それを聞き、空高く拳を突き上げた女がそこにいた。
頑張って猪の味を思い出しながら書いたので、そこだけは評価してください。