闇の中
話の裏側に興味がなければ読む必要はありません
壮一たちが王城での戦いを繰り広げていた頃、ある女も戦っていた。いや、"戦っていた"というのは不適切だ。攻撃を決して受けない。返り血1つ浴びることなく、血の池を作り、広げ続けている。その女に近づけば、たちまち体が何かに切り刻まれる。その様相たるや、まさに地獄の如く。
それを見ても何とも思わないのか、女はどこかに向かって歩き続ける。
「てめえ…何者だ?」
そこに現れたのは影のような黒いナニかを見に纏う頭に角を生やした人型の存在、魔族。圧倒的存在感を持つ魔族から放たれる威圧に、しかし、圧されることもなく、平然としていた。
こちらを恐れた様子を見せない、黙ったままの女への警戒を高め、魔族は動かない。いや、動けない。動いた瞬間に殺される未来を視たのだ。未来予知、それがこの魔族の能力。その能力でもってこの大陸でかつて頂点に立ったその男は、その能力でもって自分の不利を知ってしまった。
「ふふふ…、面白い顔をしてますね。未来予知ですか?」
「…、その通りだ…。……ッッ!てめえ、何をした?!」
返答をするつもりなどなかった。しかし、魔族の口は素直に事実を答えてしまっていた。
「そんなことはどうでもいいじゃないですか。ところで、私、使い物になる部下を集めているんです。私の部下になってくれませんか?」
魔族の問いには答えず、自分の要求を口にした。もちろん、反発する。
「なんで俺がてめえの部下にならなきゃならねえんだ?殺されてえのか」
「別になりたくなければ私のことを放って置いたらいいじゃないですか。それなら私も何もしません。文句があるなら、やってみたらどうですか?」
森の中から複数の魔族が現れ、女を包囲した。既に現れた魔族たちは臨戦態勢だ。それに臆することもなく、女は続けた。
「ただ、その場合…。まず貴方を殺す。その後に私を囲んでいる貴方たちを殺す。…ああ、ついでに、そこらへんで隠れたつもりになっている方たちも殺しましょうか」
その言葉に偽りはない。自分にできると確信している表情で言い放った。その言葉で未来予知の魔族を除いて、他の魔族たちは女に恐怖し、逃げ去ってしまう。
残った魔族はこの女を速やかにこの大陸から追い出さなければならない。逃げ去った魔族たちを見ながら、決心した。
「なんでここに来た?俺が部下にでも何にでもなる、あいつらを見逃しちゃくんねえか。さっさとお帰り願いてえ」
「じゃあ、部下になってくださいよ。どうせ貴方以外の方は必要ありませんし、何もして来なければこちらも何もしません。あと、ある物が手に入ったらすぐに帰りますから」
魔族の返事を聞いた女の顔は、先程までが嘘のような笑顔だった。
男は後悔した。もしかしたらとんでもない奴の部下になってしまったのではないかと。しかし、男の中の奥底で熱くなったものがあった。それは長らく感じていなかった、武人としての自分の本性。この女のもとでならさらなる高みにたどり着ける、そう思った。
かつて魔王と呼ばれた男、その後悔は、すぐにそれを超える欲望にかき消されたのだ。
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