三話
オーガに襲われた者たちのもとへ駆けつけ、対峙する壮一はオーガの力量を冷静に分析していた。その豪腕からして重い一撃を行ってくることは間違いない。そして厚い筋肉をもつその体にダメージを与えるには…。
ひとまず、攻撃させて相手のリズムをつかもう。壮一はそう考えた。
「グガァッ!」
オーガが腕を振り回すような単純な攻撃を繰り返すのを見て、回避し続けていた壮一がついに構えた。
たしかに驚異的な腕力だが、その攻撃には速さがなく、見極められる単調なリズムだ。そこで、
「グガ?」
突然オーガが膝をついた。壮一はオーガを通り抜けるようにして攻撃を避けた際に、拳を人でいう鳩尾に叩き込んだのだ。それを繰り返し、ついに膝をつかせることが出来た。
「あとはこいつを倒すだけだ!」
拳と蹴りを叩き込み、オーガを倒す。しかし、倒すことはできたが拳はボロボロだった。
「おじさん、治してあげる」
そういって凛が治療をイメージして壮一に魔法を使うと、瞬時に傷がなくなった。
「ありがとうな、凛」
その光景を見ていたオーガに襲われた者たちは、驚きの連続にあった。
「なあ、あんたら…いや、あなたがたは何もんなんです?」
驚異とされるオーガを単独で倒した男に、完全に傷を癒す魔法を使える幼女。オーガを単独で倒す者といえばギルドでも多いとは言えない存在であり、完全に傷を癒せる魔法を使える者は王族に仕えることが出来るほどだからだ。冒険者である彼らにはその正体が非常に気になった。
「通りすがりの魔法少女なの!」
意気揚々と凛は答えた。
冒険者たちはなんのことかわからなかったが、とにかく礼で返した。
「あ、ありがとうございました!」
その後、壮一がオーガを持ち、凛が薬草を持って街へと戻る。
街の入り口まで歩いたところ、この街に初めて入った際に対応した門番がやって来た。
「おいおいおい!そのオーガ、ちゃんと息は止まってんのか!?」
今日冒険者となった男がオーガを倒せるとは思えず、冷静さを失い、口調が変わる。
「大丈夫だ。一応、首は折ってある。騒がせたな」
ギルドへ入り、受付のカウンターに行くと身分証明証を発行した女が現れた。
「おおーっと、なんだか見込んだ通りのことをしてくれますね〜。薬草の納品とオーガの討伐の報酬で、こちら5万100バリです。オーガの解体はこちらでやっておきますので、また来てください。」
「しかし、あの森にオーガが現れるとは何事だ?街の近くにあれほど驚異的な魔獣が現れるとは…。」
バリというこの世界での通貨を受け取りながら尋ねる。壮一にとって倒せない相手ではなかったが、それでも異常な程に固い体を持ち、恐ろしい攻撃を行っていた。油断すればただではすまなかったと考えている。
「そうですね〜、最近、魔族領にしか居ないような魔獣がよく現れるんですよ。どうしたものかとギルドでも悩んでましてね。今回はありがとうございます!」
そこで、このやり取りを見ていた冒険者の1人が声をかけた。
「あなた…、そのオーガ、本当に倒したの…?」
白い髪を伸ばした女で、その声は消え入りそうな程小さく、小柄であった。
「おじさんが1人でやっつけたんだよ!」
凛は自分のことのように壮一の戦果を伝えた。
「そう…、だったら…、私とパーティを組まない?」
事情があると察した壮一は、ひとまず外へ凛を連れて出た。
「そこの、飯屋で聞こう」
目に入った店を指差して、壮一は言った。