三十六話
王の間への階段を駆け上がる壮一は、今の状況に疑念を抱いていた。城の中には妙に人がいない。不気味な静けさがあった。
ーなぜだ…、おかしいほど静かだ。もうちょっと音があるのが普通だと思うんだが…。
疑念を払い、前を向き、ただ駆け上がる。いずれにしろ、馬鹿なことをやろうとしている王子を殴るだけだ。壮一はそう考え、目の前まで迫った大きな扉を開けた。
「アナ、お前無事だったか、よかった。…、で、そいつが王子だな」
そこには男と女がいた。1人は自分も知っているアナ。ドレスを着ているため、いつもとは見違えるようだが、猿轡と手錠、足枷が台無しにしていた。もう1人は、既に戦闘の構えの王子だ。両手を肩の高さほどまで上げ、拳を壮一に向けている。
「んー!んーんー!んーー!!」
アナが何か言おうとしているが、猿轡を嵌められているため、壮一にはわからなかった。
「風間壮一様。ようやく、お会いできましたね。私はこの国の王、クロノ・ルメシュです」
「あんたが王子か。なんで…自分の姉妹までこんな目に合わせてる!そんな価値のあることをしようとしているってのか!?」
クロノは壮一に冷たい目線を向けた。
「王子ではなく、今や私は王です。言っておきますが、王族にはね、自分の姉妹との殺し合いなんかよくあることです。でも、たしかに、私は…こんな目に合わせたくなかった」
最後はうつむきながら、気迫も薄れていた。
「なら、なんで今ッ、こんなことしてやがる!なおさらわかんねえぞ!」
壮一は今にも殴りかかりそうな、怒りを滲ませた表情をしている。
「この世界は…今、危機に陥っている。犠牲を払ってでも、戦争に向けて、最優の策をとる必要があるんです。私たち優れた者たちによる国の完全な支配。それが必要というわけですよ!」
クロノと壮一は同時に走り出した。衝突の直前、2人は右拳を相手の顔めがけてぶつける。お互いに防御も避けることもしなかった。
両者は背後に少し下がり、相手との距離を空けた。
先に動いたのはクロノだった。軽いジャブを繰り出すそぶりを見せ、それを見た壮一はいなそうとした。しかし、なぜか右からの気配を感じた壮一は反射的に左に動いた。そこで気づく、クロノが2人いることに。
「おもしろいことするな?」
「褒め言葉だと思っておきます。これが私の本気ですよ。さあ、全力で戦いましょう!」
壮一に2人のクロノが同時に襲いかかる。クロノは相当の技量を持っていた。達人とも言える程の人間と同時に戦う壮一は、すぐさま防戦一方に追い込まれた。
ーどうする…、俺一人では厳しいぞ…。一人じゃなければ…?
この場にはもう1人いるじゃねえか
シリアス感出すために頑張りました。そこだけは評価してください