二十九話
「つってもよ、流石にこの人数じゃむやみに王都に入ったところで、捕まるのがオチだぞ。どうするんだ?」
馬車に全員乗り込み、王都に向かう途中でガロンが壮一に尋ねた。壮一も考えている途中だったのか、反応はするが何も言わない。
「全く、頼りない大人たち、です」
「ここは私達の出番ですね!」
クロエとレイがそれぞれの考えを話し始めた。
ー王都は都そのものが要塞です。周りに高い壁があり、出入りする道といえば、東西南北の四つの大通りがあるのみです。ここは兵隊が大勢で見張っているのは確実ですし、ただじゃ通れません。となると…。
王都付近、夜中。ガロンは黒ずくめの格好をして夜闇に紛れていた。クロエとレイの作戦を思い出しつつ、北の大通りから難なく侵入する。
ー俺の顔はまだ割れてないから可能だろうがよ、他の策はなかったのかね…。言い出しっぺのレイでもいいと思うんだが。
まず、顔が割れていないガロンが王都に先立って侵入。その後、城壁付近の宿をとり、そこで待機。
ーしかし、慢心ってやつか、城壁を見張る兵隊はいない。作戦その二はラクに済みそうだ。
周りに見張りがいないことを宿から確認して、壁に近づく。懐から筒状の物を取り出し、それから伸びる紐に火をつけ、壁に向かって投げた。
すると、爆発。
壁に馬車でも通れそうな大穴が開いた。
それを確認したガロンは、何事もなかったかのように宿に帰った。
レイが爆発音を聞き、双眼鏡で穴を外から見て笑う。
「メイド特製アンチビルディング爆弾!だいぶ弱めにしましたが、派手に壊れましたね!」
「メイドとは何なんだ?いつぞやメイド喫茶に行ったこともあるが、もうわからん」
爆弾を作り、嬉々として人に爆発させるメイドを見て、メイドとは何かがわからなくなった。おかしな奴と知り合ってしまったかもしれないと、壮一は後悔した。
「それじゃ、明日宿で合流しよう」
頰を紅潮させるレイに内心引きながら一応声をかける。レイは壮一の言葉で真面目な顔に戻り、答えた。クロエとレイの考えでは壮一とルーシーが見つかると不味いのであって他は問題ない。この2人さえ隠せれば堂々と入れるということだ。そこで騒ぎを起こし、爆発の現場に兵隊が集まるその隙に壁を乗り越える。もし兵隊に見つかれば少し眠ってもらえばいいということだった。
「ルーシー、行くぞ」
「ええ…」
爆発現場、数百メートル離れた壁付近。そこでルーシーはジャンプすると、宙へと飛んでいった。そのまま簡単に壁を乗り越え、着地する。
「グラビティアルター、便利ね…。壮一は大丈夫かしら?」
爆発現場へと向かいながら、ルーシーは1人で大通りに向かった壮一を心配した。しかし、ルーシーも追われる身であり、人の心配をしているところではない。近くから気配がしたのだ。その気配に気付いたルーシーは家と家の隙間の細道に身を隠す。
「まっさか、壁をぶっ壊しやがるなんてな?しかも魔法じゃないんだってよ」
「魔法じゃなけりゃ、大砲でも使わねえとあんな穴は空かねえだろ。でも大砲ならどうやって俺たちに気付かれず持ってきたのかって話か」
爆発現場から持ち場に戻ろうとするところである兵隊達が通りかかった。ルーシーには気付かない。
ーでも、予想以上に戻るのが早い…。何か勘付かれてるんじゃ…。
ますますルーシーは壮一を心配することになるのだった。