一話
「すみませんでした。宇多野様、風間様。このような形でこの場にお連れすることになってしまって…」
男の目の前には五体投地を行い、謝罪をする者が居た。
「おい、とりあえず顔をあげてくれないか?いきなり謝られても、こっちは事情を把握してないからな」
その言葉を聞いた五体投地を行なって居た者はそれをやめ、事情を説明する。
「私、あなた方の輪廻を担当する総括者という者です。じつは、私の不手際でお二方を死なせるところでして…」
その説明によれば、総括者が管理する人間の書類の内、男と幼女の物をくしゃみで飛ばしてしまい、ゴミ箱に入りそうになった。しかし、なんとか総括者が書類がゴミ箱に入る直前に回収した。飛んだ時点で、地球の輪廻の中から解放されてしまったことで、地球から弾かれてしまったため、2人をここへ連れてきたのだった。
「なんだ、つまり…、結局俺たちはどうなるんだ?」
「…、あなたがたが存在したという歴史が世界からなくなりました。それでも、私が何とか書類を拾い上げたため、別の世界に居場所を用意して、そこに転移することになります」
「じゃ、じゃあ…私はもう、お母さんとお父さんに会えないの…?」
「…本当に申し訳ありません、宇多野様」
彼女は泣きそうになっており、それを見かねた男が総括者に尋ねる。
「この宇多野って子だけでも、本当に地球には戻せないのか?」
「申し訳ありませんが、無理です。あの世界から、あなた方はすでに弾かれてしまったので…、しかし、別の世界に私が転移させることはできます」
総括者が本当に申し訳なさそうに2人に言う姿を見て、男は口を開いた。
「歯を食いしばれよ。あんた…」
男は総括者を思い切り殴り飛ばした。殴り飛ばされた総括者は、背中を地面に強く打ち付けてしまう。
「あんたは本当に俺たちに悪いと思っているんだろうし、責める気はない。死んではないみたいだからな。だが、お前にも痛みを味わってもらわなきゃならない」
総括者は苦悶の表情をしながらも立ち上がり、話し始める。
「…私はもっと責められても文句は言えません。このくらいで済むとは思っていませんでした」
間を置いて総括者は再び話し始める。
「転移にあたって、あなた方には転移先の世界の常識と言語能力を付与します。いわゆるチートというのはお渡しできませんが…。転移後、数日間は私に心で問いかければお答えできるようにします。」
「あの、どんな世界なの…?」
今まで黙っていた宇多野が耐えきれず、少し涙を流しながら尋ねた。
「そうですね。文明はあなたがたの世界における近世程のものでしょうか。魔力と魔法が存在し、魔力由来の生物や物質が存在します」
そういった後、総括者が横に手を向けると光の輪が現れた。
「あちらの輪を通れば異世界への転移が完了します…。この度は誠にすみませんでした」
2人は光の輪の前まで歩いた。
「俺は風間壮一。おまえの名前はなんて言うんだ?」
「私は…、宇田野凛…」
そこで男が振り返って言う。
「総括者さんだったか…。これからはくしゃみで書類飛ばしたりするんじゃねえぞ。あんたの性格的に責める気が削がれちまうからな。それじゃ、よろしくな、凛」
それでは良い人生を…。
総括者はそう言って、2人を送り出した。
2人の旅が始まる。