十六話
レイとの護衛契約を結んだ壮一は、一人でガロンの部屋に来ていた。ガロンは退屈そうに椅子に座っており、壮一に気付くとニヤリと笑った。
「流石だなぁ…。壮一クン、まさかこんなに早く行ってくれるタァ、姉さんも褒めてくれるかもしれんぜ?」
「あれほどの女に褒められるのは悪い気はしねえが、なんだか恐ろしいもんだ…。これが裏帳簿だ」
壮一が裏帳簿を差し出すと、ガロンはアタッシュケースのような物を取り出して裏帳簿をその中に入れた。
「それは、どこかに物を送る道具なのか?」
アタッシュケースにあるはずの裏帳簿は消えており、代わりに壮一へと書かれた紙があった。
「ああ、姉さん特製さ。おっと、姉さんからの手紙だ、念のため言っとくがちゃんと読め。ホウレンソウは大事にな」
当然だと言うように肩をすくめた壮一はその場で読み始める。そこにはアクアマリンに証拠は"たどり着く"ので、早く戻るようにということと、拾ったメイドに怖がらずとも私と仲良くしてくれたら良いと伝えてくれという旨が書かれていた。
ーなんでもお見通しってか…。
おそらく、空間魔法とやらの応用か、それとも単純に組織が大きいのか、どちらにせよ情報源は豊富らしい。ガロンにアリスから早く戻ることを求められていると言って、壮一は部屋に戻り帰り支度を始めた。
「俺の上司があんたと仲良くしたいだそうだ」
壮一が部屋に入ってレイにアリスの手紙に書いてあったことを伝えると、微妙な顔をした。
「それ、どういう意味なんですか?私、大丈夫なんでしょうか…」
「最悪、俺が一回限りで弾除けになる…が、変な意味に捉えなくても良いだろう。初対面の時は普通の人としか思えなかったくらいの人だからな」
いまいち安心できない言い方をする壮一だった。
帰り支度を終え、宿を出るとガロンはすでに馬に乗り、馬車に血虎を繋げていた。壮一とレイの姿を見たガロンが二人を冷やかす。
「手が早いもんだね、どこで捕まえてきたんだよ。それとも現地妻ってか?」
「違う」
「違います」
息のあった否定をして、さらにガロンがニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。しかし、二人は無視して馬車に乗って出発した。
「…無視はやめてくれよ」
血虎のおかげで、特に苦もなくアクアマリンに戻ってくることができた壮一たちはアリスの元へ向かった。