十五話
「…っ!」
脱出前にメイドに見つかった壮一はメイドが悲鳴をあげようとしていることに気付き、急いで口に手を当てて黙らせた。
「私は…第一王女の手先だ…。私の言うことに従えば、悪いことはしない」
壮一が第一王女の手先だと名乗ると、メイドは幾分かは落ち着いた様子で、まだ怯えてはいるが頷いた。
「よし、では私とここから出よう。手伝ってくれるか?」
「…はい」
メイドに連れられ、召使いの着替え室に連れてこられた壮一は燕尾服に着替えた。召使いとメイドなら違和感は無いとメイドが考えたからだ。しかし、壮一が燕尾服を着た姿を見たメイドが思わずといった様子で笑う。
「あはははっ、致命的に似合いませんね!…はっ、すみません、ほんと…」
「いや、良いんだ、わかってる。手伝わせてすまないな…」
壮一は内心、割とへこんでいた。
メイドの機転もあって簡単に館を抜け出した壮一たちは宿に帰っていた。
「ありがとう、あんたのおかげで抜け出すことができた。報酬はいくら欲しい?」
「うーん、じゃあ3万バリください。これで失職しそうですし。第一王女の手先ってことはあの貴族を検挙するための証拠探してたんでしょ?」
そこで沈黙。壮一が言ったのは嘘ではなかったが、館に来たのはアリスの仕事でだった。沈黙を訝しみ、尋ねようとしたメイドだったが壮一が大きな皮袋を出して止めた。
「すまない。実は館に行ったのは別の用事でだったんだ。第一王女の手先なのは確かだが…」
壮一から皮袋を渡されたメイドが中身を見て驚く。
「これは!三万バリどころか、だいぶありますね。口止め料ってことですか?」
「そう言うことだ。三十八万バリほどある、それで黙っていてくれ」
「わかりました。…、こんなに口止め料で渡されると怖いんですが、あとで何かの組織に口止めどころか喋られなくされそうなんですけど」
メイドは察した。メイド自身がもともと大貴族のもとで働ける能力を持っていたことや、仕えていた主人が黒かったことで、壮一が何か不味い組織に関わっていることを察してしまったのだ。
「この報酬は貰っておくとして、私からこの内5万バリで貴方に依頼です。私を守ってください」
組織から離れて暗殺されるようなハメになるよりは、組織に関わって守ってもらった方が良いとメイドは考えたのだった。
「ああ、良いぜ…。俺があんたに見つかるなんて言うヘマをやらかさなけりゃ済んだ話だからな、その依頼、受けるぜ。依頼主さん、俺は壮一だ」
「ありがとう、壮一さん。私はレイです、よろしくお願いします」