十四話
壮一が一休みして目覚め、馬車の荷台から降りると、そこは石造りの街だった。
「ここがアインス領の中心地、アインスのお膝元か」
「ああ、アインス領中央区だ。アインス領主さんはあと3日は帰って来ねえから余裕はあるぜ。とりあえず、そこで部屋でもとっておきな」
ガロンがそばの宿屋を顎で指した。
「俺は部屋にいるからよ、用がありゃ呼べ」
これからは別行動のようだ。宿屋で部屋を取った後、壮一はこの街を見て周ることにした。
壮一は一通り街を見ながら、今回の仕事に使う物を揃えた。宿に一旦戻り、荷物を置いてからアインス領主の館の近くに来ていた。警備体制を確認するためだ。
ー外で巡回していた奴が、一人か数人で正門から入って、その後別の奴が出てきている。交代は特に決まりが無いのか、割と自由だな。これなら楽にいけるかもしれん。
壮一は侵入方法を考えつき、宿で夜まで待つことにした。
夜、壮一は領主の館の裏手の近くの路地裏で様子を伺って時を待つ。そこに巡回が一人でやってきた。
ー今だ!
その巡回を声も出させずに殴打して気絶させ、路地裏へと引きずり込んだ。
その後、壮一は奪った巡回の服を着て、正門に来ていた。
「そろそろ交代させてくれ」
正門にいた男に交代を求めると、怪訝な顔をされたが普通に通された。
「未だに巡回の人間の顔を覚えらんねえ…。あんな奴いたか?いたような、いなかったような…」
ー助かったぜ…。
正門にいる男が巡回の顔を覚えていたら危なかったが、そうではなかったようだ。
館に無事侵入することができた壮一は忍び足で領主の部屋に入った。しかし、帳簿のような物は見つからない。
ーこの本棚、妙だな。
3台の縦長の本棚が並べられているが、手前に引きずられたような痕が多くあった。そこで目に入ったのが部屋にある絵画だった。左から天使、中性的な人、悪魔が並んで描かれている。絵画の下には題名と説明が書かれたプレートがあった。
題名:我々
人が生まれると、そこには善と悪が住み着く。善が現れる時でも悪はその裏に潜む。
意味ありげに本棚と反対に置かれたこの絵画はこの本棚には何らかの仕掛けがあることを感じさせた。
この説明から考えが浮かんだ壮一は試してみた。まず、中央の本棚を床の痕の手前まで引き、次に左右の本棚を引く。念のために天使に対応する左の本棚の裏を確認するがおかしな所はない。そこで、今度は右の本棚を左の本棚の後ろへ押し込むと、近くでカチリと音がした。しかし、何かが開いたような様子はない。
ー善が現れる時でも悪はその裏に潜むということは…。
今度は左の本棚をずらしてみると、床には本一冊分が入るほどの小さな隙間が開いており、確認してみるとそこには一冊の本があった。取ってみると怪しげな金の動きが書かれており、これがアリスの言う裏帳簿に違いないと考えた壮一は本棚を元の位置に直した。
ーさて、さっさと逃げるか。
壮一が逃げようと思ったその時、扉が開く。扉を開けたメイドと壮一の目が合った。
ーまずい…、女に手をあげるのは気が引ける。俺と来てもらうしかないな、黒い貴族に仕えたり、当て身されたりするよりマシだろう。
自分がこれからすることを自分の中で正当化しながらも良心の呵責を感じ、どこからか凛がジト目で睨んでいるような気がするが、壮一はメイドには"一緒に来てもらう"ことにした。
凛「じー…じー…」
壮一「や、やめてくれ。そんな目で見ないでくれ…」
凛「汚いさすが大人汚い」
壮一「グハッ…」