十二話
アリスが"何か"したことと、第二王子が隠している物を知っているかもしれないと言ったことで、壮一はアリスを疑っていた。
「そんな疑わないでくださいよ。これは私のためでもあるんです。壮一さん…、取引、しませんか?」
ここで下手に"取引"を断れば、アリスが何をするかわからないと考えた壮一は"取引"について尋ねることにした。
「取引か…、とりあえず聞くだけ聞こうか」
「やってもらいたい仕事があるんですよ、"強い"壮一さんにね。ここアクアマリンには、多種多様な人が来るんですが…、その中には"輩"がいるんですよ」
「チッ…、あんたは違うのか?」
警戒しているぞ、と言ったも同然の皮肉。アリスは微笑むだけだった。
「フフフ…、良いですね。私の"部下"に欲しいくらいです、あんな馬鹿なチンピラよりよっぽど良い。ところでその"輩"ですが、豚貴族が私たちの邪魔をしてるんですよ。さしあたっては豚野郎の裏帳簿を取ってきていただけますか?」
部下という言葉から組織的な背景を感じた壮一は、ここで生きていくには従う方が得策だと考えて答える。
「わかった、その取引受けよう。報酬はもちろんあるんだよな?」
しかし、ただでは動かない。争う構えを見せる。
「ありがとうございます。報酬は…、"証拠"でどうでしょう?それとも金が欲しいですか?」
「もちろん証拠だ。しかし、あんた何者だ?」
証拠を出すと言ってきたことに内心驚きつつも、この場で嘘は言わないだろう、と考えた壮一は問いとともにそう答えた。
「証拠は裏帳簿と交換することを約束しましょう。私については…、これからも良い付き合いができることを期待してますよ?」
アリスは取引の保証はしたが、自分について話すことはない。知りたければ仕事をまた受けろというということだろう。
「まあ良い。それで、その豚貴族とやらはどこにいるんだ?」
「アクアマリンの南東にあるアインス領です。アインス領主、トンエル・アインスの館から裏帳簿を取ってきてください」
アリスは平然と高位の貴族の名前を出した。アインス家はルメシュ王国の建国に貢献した12の貴族の一家である。この12の貴族は貴族の最高位の権力を持っているが、アリスはその貴族相手に喧嘩を売ると言ったのだ。
「あんた、何をする気だ?」
「邪魔をするから退いてもらうだけですよ、業務妨害はやめてもらわないと」
その言葉を聞いてアリスを見た壮一は心胆を奪われた。
アリスの瞳が、見た者を震え上がらせるような冷たさを帯びていた。
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