キャットファイト
未だ復旧されずに瓦礫の山となっているそこは、最近までは活気のある闘技場だった。人はおらず、代わりに野良の猫たちが我が物顔で寛いでいる。
そんな猫たちを観ながらヒナは、猫の可愛さは世界共通だなとか平和なことを考えていた。
もっとも、この場所は平和とは程遠いのに、人がいなくなったらこうなるんだなとか無常気分も味わっている。
「カオルカオル、なんかあの猫おかしいと思いませんか?」
そんな無常気分も、フタバの一言で塵のように吹き飛ばされてしまった。
「あれは……、強い魔力を感じるね。下手に目を合わせたりして警戒させたらマズいかも」
「この世界じゃ元の世界の愛玩動物も気安く可愛がれないってワケ。2人はまだ観て……、なくてもおかしくないのか」
カオルとフタバはこの世界に来てからのほとんどを果ての森で過ごしていた。だから、この世界でも特に危険な動物しか見かけていなかったのだ。つまり、2人には愛玩動物の見た目をしている動物に対する警戒心が全くと言っていいほどなかった。
「フギャー!」
「あ」
猫が尻尾を踏まれた時のような鳴き声をあげ、カオルが足元を見ると、実際猫が尻尾を踏まれていた。
それをカオルが確認した直後、まず脇腹に鈍痛を感じると共に浮遊感、次に左半身に筆舌に尽くし難い痛みを感じた。
気付くと、岩と壁に左腕が挟まれていたのだ。
「カオル!?これは……ッ?」
「その猫!ヤバいッ、発動のラグが全くない必殺の魔法!足枷まで解錠するから後は頼んだよ、私は一旦逃げる!」
激痛に意識を失いそうになりながら、カオルは警告を飛ばして自身に回復魔法を使って逃げるが、危険な状況であることを理解していた。自分は一旦逃げに徹さなければ、恐らくやられる。
魔法を発動するには、いくつかの手間がかかるため、ある程度の時間が必要になる。だからこそ、武器がこの世界においても普及しているのだ。
強力な魔法をすぐさま使えたなら、何も用意せず、容易く人を殺すことができる。
もっとも、それは相手が並大抵の者であればの話だ。
「フン、畜生如きに忌々しい枷を全て解くとは。カオルも焼きが回ったらしいな、ヒナよ」
ここにいる赤城双葉は、埒外の存在だった。