十話
壮一はルメシュ王国のある街に来ていた。なるべく路地裏を通り、大通りに出ることは最低限に抑えている。休憩にと煙草を取り出し、紫煙をくゆらせながら、アナの計画を思い出していた。
条件付きで乗ったこの計画、非常に単純な物だった。
「壮一よ、逃亡生活をしたことはあるかの?」
計画について尋ねると、アナはそう言った。
「…ああ、自慢することじゃねえが、うんざりするほどしてきたな」
アナは計画について説明を始めた。
「まず、壮一がわしを殺す。壮一が王国中で指名手配される。以上じゃ」
それを聞いた壮一は驚く。
「おいあんた…、何するつもりだ?第二王子が何するかわかったもんじゃないぞ」
「いや、いいんじゃ。わしが殺されたことにしてしまえば、わしには"人気"がある以上奴は自分の兵隊を使っておぬしを捕まえざるを得ん。そこで手薄になった奴の周りを嗅ぎまわるつもりじゃ」
ここまで聞いて壮一は大体の計画の内容について理解した。
「なるほどな。自分の人気を利用し、奴の守りを薄くして、その内に奴の泣き所を見つけてしまおうって魂胆か。よっぽど不味い物を抱えてるみたいだな。第二王子って奴は」
「そういうことじゃ、わしは奴の隠すものを見つけたらすぐに発表する。そしたらおぬしの仕事も完了じゃ。おぬしが指名手配犯ではなく協力者であるとも発表するから自由にせい」
壮一の捜索に第二王子の手勢が割かれている間に弱点を突く。単純だが立場を利用し、動かざるを得ない状態を作り出す効果的な計画だった。
「じゃあ、条件だが…、凛を安全な場所で保護すること、そしてその場所を仕事が終わったら俺に引き渡すこと、以上だ」
「その条件、飲むのじゃ」
その後、壮一は王族殺害犯として指名手配されてこの街…アクアマリンにやってきた。ここは港町であり、他国からの船も泊まるため様々な人種が入り乱れる。貿易の場所として賑わっているが、裏では犯罪者向けの"ビジネス"も多い、そんな街だった。
そこまで思い出し、壮一は煙草を携帯型の灰皿に捨てた。休憩は終わったようだ。壮一を探す兵隊の怒声が大通りから聞こえてくる。
壮一が裏通りを歩き始めると、女が男たちに囲まれている所だった。
「なあ、ネーチャンよ。金出せや、そしたら見逃してやるぜ、へへっ…」
「や、やめてください…、お金なんてあまり持ってないんですよ…」
壮一は女を背にかばうようにして輪の中に入り、男たちと向き合った。
「寄ってたかって、女1人相手に野郎どもが…情けねえな」
「このハゲが!善人ぶったこと後悔しやがれ!」
男たちが壮一に殴りかかってきた。壮一は前から向かってきていた男の顔面を掴み、少し後ろに下がった。すると、顔面を掴まれた男は左右から壮一に殴りかかっていた仲間たちから頭を殴られ、ダウンした。
「よくもトシちゃんをやりやがったな!」
「お前らがやったんだろ」
ダウンした男をトシちゃんと呼んだ男がドロップキックを放つ。壮一は回避しつつも女の手を引いて、少し離れた場所に連れて行った。
「あ、ありがとうございます」
礼を聞きながら走り込み、一番近くにいた男にアッパーのような掌底を食らわせ、宙に浮いたその男を蹴り飛ばす。蹴り飛ばされた男は後ろにいた男とぶつかり2人揃ってダウン。そこで乾いた音が響く。ドロップキックを放った男が銃を構えていた。
「よくも子分たちをコテンパンにしやがったな。もう容赦しねえ。俺の魔法とこの銃で再起不能にしてやるあ!」
壮一はそこで女から酒瓶を投げ渡された。
「え、えっと…、使ってください!」
ー何に使えってんだよ、あんた考えてなかっただろ…。
そこで閃いた。ライターを懐から取り出し、酒を口に含んだ。
そこまで見ていた男は舐められていると感じ、渾身の一発を放つことにした。銃弾に魔法を込める。しかし、放つ前に炎に包まれた。
「うわぁぁぁ!火が!アクア!アクア!」
魔法を連続で使用して水を出し火を消す男だったが、火が消えた途端に頭部にサッカーボールキックをくらい、再起不能となった。
「あと、言っとくが…俺はハゲてねぇよ」