幽霊現る
ウタノの館で初めて過ごす夜、3人は一部屋で背中合わせに固まっていた。というのも、夕方にふらっと現れたウタノが原因だった。
「ここ、出るの。何もしてこないけど、怖がりさんだったらいけないし、伝えておこうと思って。それじゃあね」
まず、探偵がフタバの部屋に押しかけ、次に、それを見たヒナが便乗したのだった。フタバは、特に文句を言うこともなく2人を部屋に入れたが、いくつか狙いがあった。
「いったい何が出るんでしょうか?魔法だの能力だのトンデモな世界です。幽霊がいたっておかしくありませんが」
「やっぱり幽霊、じゃないんですかね。何もしてこないんなら、何もできない霊体とかってことになりそうですし」
「えゥッ!?ガクガクガクガク…」
「探偵…、ヒナはなんかガッカリだよ、本当に…」
一つは、出るものの正体を知っておくこと。バラけているより、一部屋に固まっていた方が遭遇する可能性が高いだろうという考えだ。
「ヒナヒナ、カオルは震えるおもちゃの状態です。何かあったら、カオルのことを任せます」
「会長…ヒナに任せてくれるんですね。嬉しい。…ていうか会長って案外酷いっすよね、探偵に対しても」
もう一つは、2人を守るためだ。こうしてフタバたち人間に貸すのだから、安全ではあるのだろうが念には念を入れて、安全を確保しようということだ。
「さて鬼が出るか蛇が出るか。ハッ!?」
「出るのはお化けでーす」
「ぎゃあああああああ!」
「ああもう!探偵ちょっと!一人で飛び出すなあ!」
フタバを突然襲ったのは温かな暗闇。気配もなく現れた存在が、フタバの視界を閉ざしたのだ。その両手で。
「…ウタノさん?」
「はーい。そうですよー」
幽霊の正体は、ウタノだった。
「それで、どうしてボクを狙ったんですか?カオルの方がいい反応をしてましたし、ターゲットにするには抜群だと思うのですが」
「んー、赤城さんとお話ししたかったから、かな?」
「どうして自分で言って首を傾げるのですか…」
「まあまあ、赤城さんは、おじさん…風間壮一の知ってる赤城さんであってるよね?」
「どうして、それを?」
「答えるつもりは、ありませんか」
「まあまあ、ちょっとお願いがあってさ」