急襲
「なるほどな、お前らはカオルを助けに来たのか。まあ…なら許そう。ガキ二人にマジになったこいつらが悪い。んなことより、お前ら例の奴らを探してんだろ?だったらついてこい」
「話のわかるひとがいるじゃないですか。早く出てきてくれたらよかったのにー」
「…こいつ、殴っていいか?」
ボスはカオルをアジトに連れ込んだことを後悔し始めていた。本人そのものは面白い女だが、それ以上にトラブルメイカーであり、災いをもたらす類の者だったからだ。そこでボスが選んだのは、マフィアの残党を売って早くどこかに行ってもらうことだった。
「まあ…1発くらいならいいでしょう。ヒナにはいい薬です」
「か、会長!?そそそそそんな!やめて、乱暴はやめてあんたみたいなコワモテがこんな子ども虐めるのは犯罪臭が酷過ぎ…ぎゃあああああああ!!!」
とても、いい音がしたと、カオルは語る。
ボスに通されたのは、やはり303号室だった。しかし、この部屋が目的地ではないと、ボスは語った。
「いいか…ここの棚に手を当てて、魔力を流してやりゃ…」
棚が音を立て始め、横にずれると同時に棚が立てられていた壁が変形し、やがて下へ続く梯子が現れた。
「魔法あるんだから、こんな仕掛け作らなくても飛ぶなりなんなりすればいいのに」
「なあ…こいつ、殴っていいか?」
「すみませんすみませんよくわからないけど謝りますって!ほんと、あの人以外の男って乱暴な人ばっかりだ…」
「ヒナ…その人もどっちかというと…いや、やめておきましょう」
4人は、姦しくしながら下へと落下した。着地した所で、カオルがあることに気付く。
「ここは…街の中心部地下の下水道…?ここはアジトには向いてないように思うんだけど、どういうことでしょう?」
「ま、そういうことだ。裏かいてんだよ、奴さんら。後は好きにしろ、案内は終わりだ」
「いや、まだ終わってないでしょ。仕事放棄なんて人間としてどうなんです…いだだだだすみませんって!」
「あとは俺も知らねえんだ。とにかくここを奴らが出入りしてるってだけでな、またなカオル」
かくして3人は、ガイドもなく汚臭と汚物に塗れた下水道に取り残されたのだった。しかし、その状況をものともしない者がいた。
「足跡…、下水の流れ…、あっちかな」
「先導お願いします、カオル。警戒はおまかせを」
「ちょ、待ってくださいよー」
マフィア残党たちのアジトでは、皆が忙しそうにしていた。残っているクスリを地上に運ぶ者、下水道を走る者、怪しげな魔法を行う者、まさに悪の巣窟といったところだ。そんな悪の巣窟を見つめる3対の瞳があった。
「作戦開始です、会長」
「わかりました…。うおおおおお!はッッッッ!!」
物陰から飛び出したフタバが、電光石火の勢いで敵を屠っていく。応戦しようとする者もいたが、フタバの前では風に吹かれる塵に等しく、簡単に殴り飛ばされてしまう。
「ヒっ…ヒィッ!逃げろ!」
圧倒的強者への恐怖に、正常な判断を下した者たちは少なくなかった。しかし、正常な判断であっても、彼らの望む結果をもたらすとは限らないのである。
「マグナムは禁止されたから…魔法で行くね!」
色とりどりの弾幕がマフィアたちに殺到する。彼らはこんな時でなければ呑気に見物でもしていただろうにと、カタギのようなことを考え、意識を失った。